トルコリラに下げ止まりの兆しが見えない。現在対円では44円台半ばで推移しており、2012年の最安値に迫る水準だ。対ドルでも2.7リラ前半と過去最低の水準まで下落している。トルコで一体何が起こっているのか。そして、トルコリラ反転の兆しはあるのだろうか。


なぜトルコリラが売られているのか

リーマンショック後のマーケットをけん引したのは「新興国」「資源」「高金利通貨」だった。トルコもその一翼を担い、多くの投資資金がトルコへと流入。しかし13年5月のバーナンキショック、14年1月のアルゼンチンショックにより、新興国投資に黄信号がともることになったのだ。

ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、そしてトルコは海外から投資マネーを呼び込むことで経済を成長させてきたが、米金融緩和の縮小で資金が流れ出し先行きの不透明感が増したことで、「フラジャイル5(脆弱な5カ国)」と呼ばれるに至った。

その後、フラジャイル5の中でも格差が広がることとなった。インドではモディ政権の経済改革「モディノミクス」に対する国内外の期待はなお大きい一方、トルコに対しては経済政策の先行き不透明感が高まるばかりだ。


エルドアン大統領の金融政策介入

そのような中、15年2月、トルコ中央銀行は主要政策金利を0.25%引き下げ7.50%とした。この利下げの背景にはエルドアン大統領のトルコ中銀への金融政策批判があったとされる。同大統領が「現在の金融政策はトルコ経済にふさわしくない」と述べ、中銀に対する政治的な圧力を強めているという臆測が流れた。

そのエルドアン大統領は金融政策への介入だけにとどまらず、今年6月の総選挙後に大統領権限の強化を目指している。憲法改正に必要な議席数を確保するために、景気を刺激して支持を広げたいとの思惑がある。

エルドアン大統領は「高金利が高インフレを引き起こす」との主張すら展開していると報じられている。総選挙を控え、金利を下げて景気を加速させたい思惑があるようだ。

通常、通貨防衛の為の最もオーソドックスな金融政策と言えば、利上げだ。ところが、トルコにおいてはこのセオリーが通用せず、大統領の強権的な金利引き下げ圧力がトルコリラ安を加速させていると言える。


トルコリラ防衛には利上げしかない

14年1月、トルコ中銀は緊急の金融政策決定会合を開き、主要政策金利をすべて大幅に引き上げた。この際、当時首相だったエルドアン大統領は、利上げに反対する立場を表明していたが、トルコ中銀は首相の意向を無視して利上げによる通貨防衛を優先したものだったのだ。

この時の利上げは功を奏し、トルコリラ安に歯止めがかかった。このことはトルコも例外なく通貨防衛には利上げが最も効果的であることを証明したのだ。


困難さを極める舵取り

それでは、金利を上げることでトルコリラの下落を止めることができるのだろうか。事態はそれほど単純では無い。

まず第1に、トルコ経済が失速していることは明らかだ。鉱工業生産は14年1月をピークに鈍化に転じている。HSBC製造業PMIも足下では下落傾向にあり、製造業の景況感も悪化していることがうかがえる。

14年の実質国内総生産(GDP)成長率は内需不振で2.9%にとどまったほか、失業率など主要経済指標は過去5年前後で最悪の水準だ。国際通貨基金(IMF)は、トルコの15年の成長率予測を3.4%から3.1%に引き下げている。この状況で利上げを行うことは経済的合理性からも適切とは言えない。

そして次に気がかりなのが、トルコの内政問題が深刻化していることだ。エルドアン大統領の中銀批判に対し、ババジャン副首相は中銀の独立性を擁護しながら財政規律を重視する政策を推進してきた。

経常赤字を減らすために内需引き締めや増税などの不人気政策も遂行してきたことで、政権内の堅実派として金融市場の信任は厚いが、ババジャン副首相は6月の総選挙で引退する可能性が高まっている。

トルコの経済運営の先行きはもはや八方ふさがりの感すらある。米連邦準備理事会(FRB)の利上げが近づき、新興国への投資資金が引き上げられ米国に向かう動きが始まりそうな中、トルコの経済状況は悪化している。時間の経過とともにトルコが切ることができるカードは少なくなっている。(ZUU online 編集部)

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