FAOが発表した報告書の衝撃

一方世界に目を転じるとアジア・アフリカを中心に20億人が1900種以上の昆虫を食べていると言われる。地域によっては、肉より高値で取引されているケースもあるという。つまり昆虫食は世界的にはごく一般的食文化なのである。それでも世界的に見ればGDP低位国の“限定的食文化”のイメージは拭えない。

だが、昨年FAOが出した報告書がきっかけで、俄然昆虫食が世界の注目を集めるようになった。タイトルは「食用昆虫─食料と飼料の安全保障に向けた将来の展望─」。

内容は今後予想される人口増加と地球温暖化に伴う、食糧問題の解決手段としての昆虫食の推奨だ。

人口爆発に伴う最優先課題が食糧問題であることは言うまでもない。問題はその中身だ。カロリー換算や穀物ベースでは、地球は90億超の人口を養えるという計算もある。実際カロリーベースの計算では北朝鮮が、日本の自給率を上回っている。

不足が心配されるのはタンパク源だ。健康な生活を送るためには良質のタンパク質を摂ることが不可欠だが、とりわけ世界で高齢化が進むと肉などのタンパク質不足が心配される。しかし肉は野菜や穀物に比べてもコスト高だ。消費量も所得の高い欧米が圧倒的だ。FAOの報告書は、その偏在する良質のタンパク源を昆虫食で補おうとする狙いがあるようだ。


高栄養で健康的な昆虫

もともと昆虫は良質のタンパク質や、コレステロールを減らす不飽和脂肪酸、ミネラル、食物繊維的な働きをもつキチンも多く含んでいる。つまり高栄養で健康的な食糧なのだ。

飼料としても変換効率がいい。牛肉1キロを得るのに8キロの餌が必要だが、たとえば同じ栄養をコオロギで摂ろうとすると2キロで済む。ほかにも肉より可食部が多く、狭い土地で養殖でき、水もほとんど不要。家畜に比べてメタンガスの排出も少ない。「非常に環境負荷の少ない食料であり飼料」(内山さん)なのだ。