日本は古くから生活の中に昆虫を取り込んできた昆虫大国。イナゴや蜂の子のように虫を食用としてしてる地域も少なくない。だが都市化やグローバル化の波を受け昆虫食文化が衰退していった。

しかしここに来て俄然昆虫食が注目を集めている。あのFAO(国際連合食料農業機関)が、食料問題の切り札としての昆虫食について、報告書を発表したためだ。昆虫食の伝統国日本として、手をこまねいているわけにはいかない ─。


悔しいけどウマい、コオロギの素揚げ

9月某日。都内某所である調理実習会が行われた。集まったのは20代を中心とした男女10数名。テーマは秋の食材を使った「お月見」。メニューにはチーズ巻きの天ぷら、そしてあまから団子、そしてうどんという和食の定番が並ぶ。テーブルに集まった参加者に主催者から声がかかる。

「最初はみなさんで巣から取り出してください」──。

「巣」? 現れたのはスズメバチの巣。取り出すのは巣穴の中の蜂の幼虫である。そう、今日のメイン食材は、昆虫なのである。

蜂の子はうどんのトッピングとして使う。チーズに巻かれたのはコオロギ。そして団子になるのは蚕の蛹である。

会の常連という若い女性にミキサーにかけた蛹と上新粉の半練りの団子の味見を勧められた。「……? 悪くない」 外では男性陣によるコオロギの素揚げが行われていた。こちらも試食してみた。「ん?悪くない。むしろ美味い!」


日本では55種の昆虫が食べられていた

主催者である昆虫食研究家の内山昭一さんはこうした昆虫を使った調理会を月に2回ほど、10年ほど前から催している。

「昔は1カ月に1回ほどだったんですが、最近は結構人が集まるようになって、月2回は行っています。メディアでも少しずつ取り上げられるようになったことに加え、ネットを中心に若い人に昆虫食への関心が広がったと思う。若い人は昆虫食自体を知らない世代で、物珍しさから入ってる模様。昆虫に抵抗感がなくなっていると感じる」と話す。

日本は昔から昆虫の種類が多い昆虫大国である。古くより食虫文化も根付いており、各地方でイナゴや蜂の子、蚕さなぎ、セミなどが伝統食として食べられてきた。1919年の調査では、国内で55種の昆虫が食べられていたという。「もともとイナゴなどは国民食で成人の50%がその佃煮を食べているとのデータもある」(内山さん)

だが食の欧米化や都市化に伴い、こうした食文化が失われつつある。食虫をいわゆる「ゲテモノ好き」として捉える傾向や、昆虫食を体験した世代のなかには、代用食としての“貧者の食”(内山さん)のイメージが根強いためだ。内山さんはさらに「流通のナショナルチェーン化、グローバル化」も挙げる。

「昆虫はまだ大量養殖ができていないので安定供給できない。それもあって次第に昆虫食が各地で減っていったのではないか