ランド・オブ・オポチュニティ
■ポイント
◆昨日は米住宅着工の大幅上振れを受けてドルが全面高、ドル/円も3月末以降のレンジ上限である121円に接近している。
◆ユーロは、ECB理事が資産購入の加速・追加を示唆する発言を受けて急落した。
◆豪ドルも、ややハト派的なRBA議事要旨や鉄鉱石価格の下落などから続落した。
◆本日は、本邦1QGDP速報値、英BoE議事要旨、南ア4月CPI、トルコ中銀金融政策決定、FOMC議事要旨など重要材料が多い。
◆ドル/円は、FOMC議事要旨がタカ派的なトーンとなれば、121円乗せを試す展開も。
◆ユーロ下落の持続性は、ドイツ10年債利回りの低下如何に依存。
◆南アCPIも市場を動かしそうで、上振れの場合には翌日の南ア準銀政策委員会での利上げ期待とランド高に繋がりそうだ。
昨日までの世界:ECBが金利高を、RBAが通貨高を抑制、住宅が建ち直る
ドル/円は、2月に急減し3月の回復が殆どみられなかった住宅着工件数の4月分が113.5万件と市場予想を10万件以上上回り7年振りの高水準となったほか、前月計数も上方修正されたこともあって、米中長期債利回りの大幅上昇と共に120円丁度近辺から一時120.74円と、4月13日の浜田参与発言前につけた直近高値である120.84円に迫るドル高水準となった。但しレンジ上限でもあることから、上昇トレンド回帰にはもう一息、ドル高要因が必要だ。
ユーロ/ドルは、欧州時間入りにCoeure・ECB理事(市場操作担当)の、7月半ばから8月にかけての流動性低下を考慮し、5-6月に債券購入ペースを加速させ、9月に追加購入もあり得る、との発言報道が流れ、事実上これまでの利回り急騰やユーロ高に対して口先だけでなく実際のオペレーション上も対応措置を取る可能性を示唆したことから急落、1.13ドル丁度近辺から1.12ドル割れへ下落した。
そしてその後米住宅着工の予想比上振れを受けたドル高もあって、一時1.1119ドルへ続落した。なお、既にユーロ急落後だったが、5月ドイツZEW期待指数も41.9と前月および市場予想を大きく下回っており、ユーロ安要因だった。
ユーロ/円は、欧州時間にユーロ/ドルと共に135円台前半から133.95円へ急落した。その後は対円では方向感が出ず、134円台半ばへ小反発している。
豪ドル/米ドルは、RBA議事要旨で、将来の金融政策に関するガイダンスがなくても政策余地は制限されない、という表現があり、RBAの政策バイアスはどちらかというと緩和方向であることを再確認するものだと受け止められ、発表後に0.799ドル程度から0.79ドル台半ばへ若干下落する局面がみられた。
その後、RBNZの2Qインフレ期待サーベイで1年後のインフレ期待が前期の+1.11%から+1.32%へ上昇していたことが明らかになり、利下げ期待の後退からNZドルが急騰すると、豪ドルもつれて反発、議事要旨発表前の水準を回復していた。但しその後、ユーロ/ドルの下落につれたほか、米住宅着工の予想比上振れを受けて下落が加速、一時0.7907ドルの安値を付けた。
豪ドル/円は、対米ドルで円の下落よりも豪ドルの下落の方が大きかったことから、96円丁度近辺から一時95.39円へ軟化した。
ポンドは、欧州時間入り後にユーロ急落につれたほか、英4月CPIが前年比-0.1%と予想を下回りマイナス転したことから下落に拍車がかかり、対ドルで1.565ドルから1.5447ドルへ、対円で187円台後半から185.97円へ急落した。但し対円では、その後のドル/円の反発につれて187円台を回復している。ちなみに、英CPIのマイナス転は既にBoEがその可能性については言及しており実現は時間の問題で、晴天の霹靂ではなかった。
きょうの高慢な偏見:住宅は建ち直るか?
ドル/円は3月末以降のレンジ上限に近づいている中で、4月28-29日開催分FOMC議事要旨で、声明文と同様に減速は一時的で、6月利上げ開始の可能性も排除されないニュアンスが再確認されると、121円上抜けを試す展開もありそうだ。
なお、本邦1QGDPは前期比年率+1.6%と、前期の+1.5%とほぼ同程度の成長率が予想されており、上振れすれば追加緩和期待の後退から円高、下振れすれば逆に追加緩和期待の高まりから円安に繋がりそうだが、成長率の振れから(インフレ圧力の変化を通じて)金融政策スタンスへの影響は間接的で、すぐに大きな日銀の姿勢の変化に繋がりにくいため、円相場への影響は限定的となりそうだ。
ユーロは、昨日のCoeure理事発言の効果がどこまで続くかが焦点となるが、ドイツ10年債利回りをみると、発言報道後に0.63%から0.55%へ低下した後、元の水準へ一時反発するなど、ユーロ相場ほどのインパクトと持続性がなかったことから、ユーロ安が続かないリスクがある。
豪ドルは月曜のLowe副総裁発言、昨日のRBA議事要旨を受けて、RBAの金融政策スタンスがどちらかというと緩和方向にバイアスがかかっているとの見方が強まる中で、鉄鉱石価格の反落基調もあり、軟調が続きそうだ。
ポンド関連ではBoE議事要旨が注目だ。RBAと同様、通常5月会合後には四半期インフレ報告が発表されており、議事要旨で新たな情報が出てきにくい。
但し、インフレ報告で今年の成長率と週平均賃金予想、来年分のCPI予想が下方修正された状況で、前回4月議事要旨で「2名の委員が据え置き決定は微妙なバランスと指摘した」というタカ派的な記述が今回もみられると、ポンドは反発しそうだ。因みに、4月22日の4月議事要旨発表後にはポンドが上昇、5月13日のインフレ報告発表後にはポンドが一時下落していた。
南アでは4月CPIが発表される。市場では原油反発などから総合が前月の前年比+4.0%から+4.6%へ上昇すると予想されている。
これは南ア準銀(SARB)のインフレ目標レンジ(3-6%)の中心だが、市場では南ア総合CPIは来年初にも目標レンジ上限である6%を超えてくると予想されているほか、コアCPIは前年比+5.7%と高止まっていることから、総合、コアいずれかが市場予想を上回れば、7-9月期に予想されている利上げが前倒しされるとの期待を高めやすく、ランド高要因となりそうだ。南ア準銀の金融政策決定は明日21日に予定されており、現時点では政策金利は5.75%で据え置きがコンセンサスとなっている。
トルコでは、6月7日の総選挙前では最後の中銀金融政策決定が予定されている。原油安を受けてインフレ上昇が落ち着いた際にはエルドアン大統領サイドから中銀へのあからさまな利下げ要求が続いたが、足許はインフレ率が再び上昇してきている中で、政治的な利下げ要求は目立っておらず、今回も政策金利は7.5%で据え置きがコンセンサスとなっている。
5月入り後に通貨リラが反発基調となり、通貨防衛のための利上げの喫緊性も薄れている。こうした状況下、据え置きでも政府サイドからかつてのような中銀批判・利下げ要求には繋がらず、そうした発言を受けたリラ安の可能性も低そうだ。
山本雅文(やまもと・まさふみ)
マネックス証券
シニア・ストラテジスト
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