(写真=PIXTA
記事=株主手帳2015年6月号掲載)
今月のテーマ:電子書籍
電子書籍市場が拡大を続けています。インプレス総合研究所の予測では、雑誌を除く電子書籍の国内市場は2013年度の936億円にのぼるとしており、本格的な普及期に入りました。
電子書籍を読むための専用端末(リーダー)も進化しています。高精細な画面で文字やイラストをくっきり表示できるアマゾンのKindleVoyageや、水濡れによる故障を心配せずに利用できる楽天のKoboAuraH2Oが登場しました。
もともと画面もスマートフォンやタブレットより文字を読みやすく、イラストも見やすいよう工夫されているため、従来の印刷書籍の愛好者も違和感なく利用できる水準に近づきつつあるのと、重さもKindleVoya、geでは約180グラムとこれまで電子書籍端末の課題であった重さの問題も解消され、実用性が向上しました。
電子書籍を閲覧するツールとしては、MMD研究所の調査によると、スマートフォン47・3%、タブレット27・5%、ノートパソコン9・3%、専用端末4・5%となっており、現段階では専用端末の利用率は低いですが、使い勝手の良さもあり利用率の向上が期待されます。
電子書籍は文字や挿絵をデジタルな情報へ変換し電子ファイル化することで印刷、製本、流通の経費削減を図ることができます。また消費者はインターネットに接続できる環境であればいつでも書籍の購入(ダウンロード)が可能で、本棚の場所も取りません。販売する側も、絶版や在庫切れ、流通都合などによる販売機会の喪失が避けられる、といった利点もあります。
マンガとインターネットの親和性は高く、電子書籍市場の約8割をコミックが占めています。集英社は昨年9月スマホ向けアプリ「少年ジャンプ+」をリリースし、週刊少年ジャンプに加えて人気単行本もアプリ内で配信しました。
また、講談社は、デジタルガレージと資本業務提携して北米の電子コミック市場開拓を進め、イーブックイニシアティブジャパンは中国市場でコミックを中心とした日本の電子書籍を配信します。中国における日本のマンガやアニメの人気は高く、電子配信の市場としては有望といわれています。
無料で新作マンガが読めるサイトも人気があり、LINE系のNHNPlayArtが運営するcomicoは900万ダウンロード、ディー・エヌ・エーが運営するマンガアプリ「マンガボックス」は700万ダウンロードとなっており、各社作品の書籍化、アニメ化、ゲーム化といったIPの活用で収益雑誌化を目指しています。
公共施設においても電子書籍の活用が広がりつつあります。先ごろ楽天が電子図書館プラットフォーム世界最大手の米OverDriveを約500億円で買収しましたが、4月にはKADOKAWA、紀伊國屋書店、講談社の合弁会社「日本電子図書館サービス」がサービスを開始予定で、日本においても本格的に電子図書館の普及が始まることになりました。
教科書の電子化も進んでいます。デジタル教科書の共通プラットフォーム開発コンソーシアムのCoNETS(教科書会社12社と日立製作所で構成)は、4月15日から全国3000の小学校の指導者向けデジタル教科書と、それを閲覧する専用ビューアーの利用が始まり、4月末には児童が利用するデジタル教材の提供も開始されます。