なぜこうしたギャップが生まれるのだろうか。それは、事業の将来性の不安や後継者の不在、個人保証、個人資産、税金など、さまざまな問題があり、どの問題から手を付けていいかわからないからという事情があるからだ。

しかし、だからといってオーナー社長が決断せずに、なりゆきで、次代に事業を委ねてしまえば、会社や一族はどうなってしまうか。苦労している例をたくさん見てきている。


事業の所有を巡って兄弟で仲違い

例えば、こんな事例がある。ある初代社長が一つの工場から作り上げた製造業A社だ。初代社長には3人の息子がいて、長男だけが、A社に入社していた。初代社長と、A社に入社した長男は、初代の社長は会長に、長男は社長に就任して、二人三脚で会社を大きくしていった。社長を務めていた長男は優秀で、事業を伸ばして海外にも進出していった経緯がある。

だが、順調だったA社を創業した初代社長はミスをおかしていた。それは資本承継のパターンを決めなかったことだ。A社に入社しなかった2人の弟にも株式が承継され、2人の弟も毎年の株主総会の招集通知で増えていく利益と積み上がっていく資産をずっと見ることになった。ここに「お金が人を狂わす」ということがある。

次に、何が起こったかというと、事業にまったく関わっていなかった弟2人が、手を組んで長男を追い出しにかかったのだ。株式の3分の2を弟達に握られており、普通なら、長男は役員を解任されて終わりだ。これに対して長男は、株式の一部を受け取っていた一族を味方につけることもでき、ギリギリの比率でようやく勝つことができた。

しかし、2人の弟はそれでも納得せずに、株式の買い取りをさらに請求してきた。買取請求に対して長男は、「今後の災いを避けるため」と、10億以上の借金を金融機関を回って個人で負って、すべての株式を買い取ったのだ。今ではその長男は、弟たちとは必要以上に話さないし、話したくもないと言っている。