日本株の実力は?

注意すべきは、ここ数日で世界経済の何かが根本的に変わったわけではない。いずれ中国経済が減速することも、米国の景気回復が年初に想定していたほど力強くないことも分かっていたはずで、株価が上昇過程にあったので見てみぬフリをしていただけだろう。要するに世界中で市場心理が弱気に傾いたため株価が下落しているわけだ。

となると、この先を見通すうえで重要なのは日本株の実力を探ることであり、その際に最重要ポイントとなるのは企業業績だろう(需給については後述する)。日本企業の業績が様々な要素で決まることは言うまでもないが、中でも為替が及ぼす影響は極めて大きい。やや乱暴だが、ここでは為替レートを軸に企業業績を考える。

図2は毎月末時点のドル円レートを示している。各年度の平均レートを計算すると、昨年度(15年3月期)が110.7円だったのに対して、今年度(16年3月期)は8月までの平均が122.6円だ。仮に来年3月まで120円ちょうどで推移したとしても年度平均は約121円となる。つまり、今後1ドル=110円台が継続しない限り、昨年度と比べて10円以上の円安が進んだ格好になる。このことは輸出企業を中心に業績を大きく押し上げる効果が期待できよう。

昨年度の平均が1ドル=110円というのは意外に感じるかもしれない。それもそのはず、最近では「1ドル=120円台」というイメージが強いが、実は120円台に円安が進んだのは昨年10月末に日銀が追加金融緩和(通称:黒田バズーカII)を実施した後のことで、それ以前は1ドル=100~108円で推移していた。

【図2】16 年 3 月期も円安効果で増益期待

原油価格の下落も見逃せない。円安は輸出企業の業績を押し上げるメリットがある一方で、輸入企業にとってはコスト増となる。これに対して原油価格の下落はエネルギー関連など一部を除く幅広い企業にとって電力料金や輸送費などのコストダウンにつながるので、内需企業も含めて業績改善効果が期待できる。

しかも図3に示したように、原油価格が大きく値下がりしたのは昨年秋以降のことだ。これも忘れがちだが、ちょうど1年前の14年8月時点ではWTI原油先物は約98ドルであった。その後徐々に値下がりし、50ドルを割ったのは今年に入ってからの出来事だ。

そして原油価格の下落が電気料金などに反映されるまでタイムラグがあることを考えると、15年3月期決算には原油安のメリットがほとんど含まれておらず、むしろ16年3月期から寄与する可能性が高い。

このようにデータを整理してみると、円安や原油安によって16年3月期の業績改善はほぼ間違いないことが分かる。問題はどのくらい改善するかだが、期初時点の企業発表では経常利益ベースで約9%の増益予想であった。企業が保守的な予想を出すのは恒例行事であり、ホンネでは15%くらいの増益を見込んでいるのだろうし、前述した円安や原油安による増益効果を存分に反映すれば20%くらいの増益を見込んでいても不思議ではない。

【図3】原油安メリットも業績を押し上げ