8月の注目ニュース、今後の注目点など
◆マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン・インド:2015年4-6月期GDPを公表
マレーシアでは13日、タイでは17日、インドネシアでは5日、フィリピンでは27日、インドでは31日に2015年4-6月期のGDP統計が公表された。実質GDP成長率は、フィリピン同+5.6%(前年同期比+5.0%)と上昇したが、マレーシアが前年同期比で+4.9%(前期:同+5.6%)、タイが同+2.8%(前期:同+3.0%)、インドが同+7.0%(前期:同+7.5%)と低下した。インドネシアは同+4.7%(前期:同+4.7%)と横ばいとなった。
ASEAN、インドともに内需はインフレ圧力の後退により、底堅さを維持する傾向が見られるが、低調な海外経済を受けて輸出の低迷が成長率の足かせになっている。中国を中心に海外経済の先行き不透明感が燻っており、力強い景気回復は見込めないだろうが、各国で遅れる予算執行が加速すれば景気を下支えする期待もある。
◆インドネシア:内閣改造(12日)
インドネシアでは、12日にジョコ・ウィドド大統領が内閣改造を発表した。経済閣僚を含む6閣僚を交代した。前中央銀行総裁のダルミン・ナスティオン経済調整相のほか、元経済調整相のリザル・ラムリ海事調整相、民間出身のトマス・レンボン商業相などが起用された。
注目は経済政策の加速だ。インドネシアは昨年の原油価格の下落を追い風に燃料補助金の削減に踏み切り、捻出した財源をインフラ整備などに充てる補正予算を編成したが、組織の縮小化と運営の効率化を狙った省庁再編に時間を要した影響もあり、予算執行の遅れが目立った。
その結果、景気が減速し、ジョコ政権の支持率低下に拍車が掛かっている。利害調整に時間が掛かる国会運営には期待ができない以上、新たな「働く内閣」がパフォーマンスを向上する必要がある。十分な機能発揮がなければ、保守的な政策しか打ち出さないといった投資家のインドネシアに対する懐疑的な評価は変わらないだろう。
◆タイ:バンコク爆弾テロ(17-18日)と内閣改造(20日)
タイでは、17日に首都バンコクの繁華街で爆弾テロが起き、20人が死亡、120人以上が負傷した。その翌日の18日にも同一犯と見られる爆弾テロが起きたが、爆弾が海に落ちたために被害者は出なかった。タイは4-6月期に景気減速するなかでも好調な観光業は景気を牽引してきただけに、テロ発生による外国人観光客の減少で景気が更に減速する懸念が高まった。
現在は軍と警察による厳戒態勢の下、新たなテロは起きておらず、29日にはタイ警察がテロに関わった可能性のあるトルコ系と見られる外国人男性の逮捕に至った。犯行グループは10人以上と見られ、警察は引き続き残る犯人の逮捕にむけて全力を挙げている。当面は厳戒態勢が続くだろうが、事態が早期に収束すれば、観光業への悪影響は一時的なものに止まる可能性がある。
また20日にプラユット暫定首相が内閣改造を行い、タクシン政権時に副首相を経験したソムキット副首相(経済担当)をはじめ民間人の閣僚を増やした。景気減速が続いて軍政批判が高まる前に第二次内閣で再スタートを切ると見られる。
ソムキット副首相は、24日に景気対策として農家や低所得者に対する支援を打ち出す方針を示した。農産品価格の下落によって購買力が低下した農家をはじめ、低所得や中小企業に対する救済措置を打ち出す予定だ。外需に期待が持てない中、国内のカネ回りを良くして内需を改善するものと見られる。
◆9月の主要指標:韓国・台湾・マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン・インドで金融政策会合
9月は韓国(11日)・台湾(24日)・マレーシア(11日)・タイ(16日)・インドネシア(17日)・フィリピン(24日)・インド(29日)の中央銀行で金融政策会合が開かれる。
各国・地域ともにインフレ率が低く、利下げ余地を残しているが、足元の中国経済とFRBの動向に市場が揺れる展開を考慮すると、金融緩和には踏み切りにくい。むしろ通貨安が加速する場合、マレーシアやインドネシアは通貨防衛策として利上げが判断されてもおかしくない。
なお、インドはファンダメンタルズの改善を背景とする通貨の安定やインフレ圧力の後退を材料に利下げに踏み切ると予想する。
斉藤 誠
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
研究員
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