ニューディールほうふつとさせる社会民主主義的内容

また7月24日の講演で、「保有期間2年以下の財産売却には現行の所得税率と同じ39.6%、3年から4年は32%、4年から5年は28%、5年から6年は24%、6年以上の保有後の売却に対しては現行の最低キャピタルゲイン税率である20%を適用すべきだ」と、保有期間に応じた累進的な課税を提言した。

長期的視野を持つ投資家や経営者は優遇されることになるが、この「長期的経済思考」vs「短期的経済思考」こそが、大統領選におけるクリントン氏の経済政策の中心論点であり、中流層再興のカギとして売り込みが図られている。

経営者が投資家ばかりを向いて短期的思考をするのではなく、労働者や社会などのステークホルダーも見ながら長期的思考をすれば、賃金上昇などで中流層の拡大や経済成長が見込めるというロジックだ。

さらに、企業の労働組合妨害に対する規制を強化して、労組の組織化を容易にし、労働者が経営参加するドイツ型労使協議会制度の創設を提案、従業員持株制度(ESOP)を導入した企業への優遇税制、創業した会社を従業員所有企業に転換した創業者への減税なども打ち出すなど、ビル・クリントン政権下で弱体化した労働者の権利を再強化することもうたっている。

労働者に雇用者と対等な交渉力を与え、労使間の富の分配を平等化することが経済復興につながるとの理念で展開された、社会民主主義的な1930年代のニューディール政策をほうふつとさせる内容だ。


実は企業・財界寄り?

こうした表面的な主張だけを見れば、クリントン氏は投資家や経営者の敵ではないかと思えるのだが、実は彼女は財界寄りだとする指摘も多い。

ニューヨーク・タイムズ紙は、「民主党左派が、クリントン氏の金融業界との長年の緊密な仲を心配している」と伝えている。またニューヨーカー誌も、「クリントン氏の経済政策を立案したシンクタンクの米国進歩センターは、アップル、グーグル、ウォルマート、シティグループ、ゴールドマン・サックスなどから予算の6%相当の献金を受けている。献金する者が政策提言をどう左右するか、監視する必要がある」と注意を促している。

さらに、ワシントン・ポスト紙社説は、「クリントン氏の提言は有権者に大まかな方向性を示すのに必要な内容は含んでいるが、政治的な困難を伴う具体的な取捨選択は避ける内容になっており、それこそが狙いだ」と批判し、「企業寄りとされる環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの貿易構想について、立場を明確にすることを拒んでいる。軍事費の聖域にも踏み込まない」と、矛盾を突いた。

こうして見ると、クリントン氏の経済政策は基本的に財界寄りの姿勢を維持しつつ、一部に中流層再興の実効的内容を盛り込む「中道派」であると言えそうだ。(在米ジャーナリスト・岩田太郎)

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