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(写真=PIXTA)


弾力的な運営を可能とするDB制度の議論が再開

社会保障審議会の下に設置された企業年金部会での議論が、9月11日に再開された。今年1月に一旦打ち切られるまでに結論が得られなかった弾力的なDB制度の運営を可能とする措置を検討するためである。

この課題については、6月30日に閣議決定された『「日本再興戦略」改訂2015-未来への投資・生産性革命-』でも、「企業がDB制度を実施しやすい環境を整備するため、DB制度の改善について検討し、今年中に結論を得ること」とされており、早急な対応が求められている。

以下では、まず昨年6月から始まった企業年金を中心とする企業年金の普及・拡大に向けた議論を振り返る。その上で、9月11日の企業年金部会で示されたDB制度の弾力的な運営に向けた見直し案を概観し、給付設計の柔軟性を高めるDB制度として提示された「リスク分担型DB(仮称)」に焦点をあて、その導入意義について確認する。


私的年金の普及・拡大に向けた議論の振り返り

◆議論の背景

企業年金を中心とする私的年金の見直しの議論は、DC制度、DB制度が創設されてから10年以上が経過する中で、社会経済情勢を含め、私的年金を取り巻く環境が大きく変りつつあることが背景となっている。公的年金の縮小、企業年金導入割合の低下といった変化である。

公的年金は、現役世代の保険料を退職後世代の給付に充てる賦課方式の制度である。このため、現役世代と退職後世代の人口構成の安定が財政均衡の前提となる。しかし、少子化と長寿化が進む日本では、向こう数十年にわたって人口構成のバランスが崩れていくことが確実視されている。

2000年に3.9人であった65歳以上の高齢者1人を支える生産年齢人口は、2015年に2.2人、2055年には1.3人まで減少することが見込まれているのである。こうした中で、公的年金財政の均衡を確保していくためには、保険料の引上げか給付の引下げの何れかが必要となる。

しかし、現役世代の保険料負担はすでに限界に達しており、将来世代に負担を先送りするのは、世代間の公平性の観点からも望ましくない。そこで取られた対応策が、保険料率を固定する一方で、給付を長期にわたって抑制する「マクロ経済スライド」の導入である。

2004年の制度改正により導入された「マクロ経済スライド」は、「現役世代の減少」と「平均余命の伸び」というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する仕組みである。この「マクロ経済スライド」により、向こう数十年にわたって所得代替率は少しずつ低下する予定である。

退職後の所得保障の観点では、公的年金以外の収入の確保が急務となっている。公的年金以外の収入源として期待されるのが企業年金を中心とする私的年金である。しかし、企業年金を導入する企業の割合は決して高くなく、企業年金によってカバーされる民間サラリーマンは全体の半分にも満たない状況である。

厚生労働省の就労条件総合調査(常用労働者30人以上の民間企業を対象にした調査)によれば、2013年時点で企業年金を導入している企業は全体の34%に留まっている。従業員数が1000人以上の企業では77%と高いが、100人未満の企業では導入割合は26%を割り込んでいる。

こうした状況に追い討ちをかけるのが、厚生年金基金の実質廃止である。AIJ投資顧問による巨額の年金資産消失問題に端を発する見直し論議を経て、2013年に厚生年金基金制度の役割を大幅に縮小する改正法が成立したのである。これにより、企業年金の導入率は、大きく低下することが避けられない状況となっている。

上述の就労条件総合調査で、厚生年金基金の導入割合を単純に差し引くと、全企業、従業員数1000人以上、100人未満の導入割合は、それぞれ19%、68%、10%にまで低下する。複数の企業年金制度を導入する企業や厚生年金基金から他の企業年金制度へ移行する企業もあることから、過小評価し過ぎている面は否めないものの、導入割合の大幅な低下は避けられない状況となっている。

他方、IT等の技術の変化、経済のグローバル化、少子高齢化を背景とする経済の成熟化のなかで、企業経営の在り方とともに人事政策や福利厚生の考え方にも変化が生じている。こうした中で、個人の働き方にも多様性が見られるようになっている。

一度会社に入ったら定年まで同じ会社に勤め続けるという従来一般的な働き方に対し、転職を前提とした働き方を志向する動きも見られ始めている。時代の変化とともに、企業のニーズや個人のライフコースの多様化も着実に進んでおり、こうした多様性にも対応することも重要な課題となっている。

こうした様々な環境変化に適応すべく、企業年金制度の改善を図ることは、公的年金の縮小が進み、退職後の所得保障としての私的年金の重要性は高まるなかで不可欠であり、このことが昨年5月以降の広範な検討課題の議論の背景となっている。

DB 図1