厚生労働省より提示されたDB制度の弾力化(案)

◆「リスク対応掛金」を通じた掛金の事前拠出

DB制度では、労使合意により定められた給付算定方式によって将来の給付額が予め決められている。このため、評価時点の積立金と将来の掛金収入の現在価値である掛金収入現価との合計額が、将来の給付の現在価値である給付現価と一致しない場合には、掛金を調整することで年金財政を均衡させる必要がある。

年金財政が悪化する要因には、運用不振により予定した運用収益が得られないと言った積立金運用の巧拙による要因の他に、予定よりも平均寿命が延びて給付現価が増える、予定よりも給与が伸びずに掛金収入が減少するなど、給付現価や掛金収入現価を計算する際に設定する基礎率の前提が実績と乖離する場合などがある。

いずれにしても、積立金と掛金収入現価の合計額が、給付現価に対して不足すれば、企業は掛金の追加拠出により不足を補填する必要がある。将来にわたって確実に給付を支払い、受給権を保護するという点では、望ましい仕組みである。しかし、積立不足に陥るのが往々にして景気悪化局面であり、従って企業が業績や資金面において余裕があるとは言えない時期に掛金負担が高まる構造になっており、企業活動にも支障が生じ兼ねないことが懸念される。

今回提示された掛金拠出の弾力化は、以上のような現行制度の課題を踏まえ、企業が予期せぬ追加的な掛金負担を迫られる可能性を抑えることを目的とするものであり、概要は以下の通りである。

【掛金の事前拠出を可能とする弾力化】
1)「財政悪化時に想定される積立不足」を予め決められたルールに従って測定
2)「財政悪化時に想定される積立不足」に対応する「リスク対応掛金」を新たに設け、1)の積立不足を上限に、企業はリスク対応掛金を事前に拠出(積立不足の測定ルールや拠出ルールの詳細は今後検討される予定)
3)積立金と「リスク対応掛金」を含む掛金収入現価の合計額が、給付現価よりも多く、給付現価と1)の積立不足の合計額よりも少なければ、財政が均衡していると見做し、従来の財政均衡の考え方を緩和

DB 図2

現行では給付現価を超える掛金の拠出は認められていない。この規制を緩和して、不測の事態に備えるリスクバッファーとして、「リスク対応掛金」を事前に積み立てられるようにするのが、今回の弾力化案である。企業にとっては、景気変動に左右される掛金拠出を平準化できる効果がある。また、年金財政の安定化が給付減額の可能性を低下させる点で、加入者にとってもメリットが期待できる。

ただし、弾力化の効果は、「財政悪化時に想定される積立不足」の大きさや拠出の柔軟性に依存する面は否めない。世界的な金融危機直後に大きく悪化したDB制度の積立状況は、ここ2~3年の株高や円安により大きく改善しており、足元では多くのDB制度で積立比率が100%を超える状況にある。

仮に、今後検討されるルールに従って計算される「財政悪化時に想定される積立不足」が小幅に留まるようであれば、積立状況が良好な現状では、「リスク対応掛金」を拠出できないといったことも想定される。

このため、ある程度の幅を確保できるように、積立不足の測定ルールが決められることが望まれる。もっとも、税制上の観点からは、恣意的な掛金拠出による過剰な損金算入を防止する必要性もあり、「リスク対応掛金」を拠出できる積立不足の幅には限界があることには留意が必要である。