「リスク分担DB」の導入意義は?

◆他の企業年金制度との比較-運用リスクの分担の違いに着目して

複数の異なる企業年金制度を比較する場合、様々な観点が考えられる。ここでは、今回提示された新制度の仮称にも記されている"リスク"のうち、その大層を占める運用リスクに焦点を絞って、企業あるいは加入者・受給者がどの程度の割合で運用リスクを負担するのかといった観点から、既存の制度と「リスク分担DB」の特性の違いを確認する。

ただし、「リスク分担DB」については、「リスク対応掛金」として拠出可能な額やルールが定まっていないため、あくまでも著者の推測である点につきご留意を願いたい。

図表4が制度間比較のイメージである。図表4からも一目瞭然のように、「リスク分担DB」はDB制度とDC制度の間に位置する制度と言える。なお、図中の「リスク分担DB」のの大きさ、つまり企業が負担する「リスク対応掛金」の大きさを変えることで、労使間のリスク分担割合を柔軟に調節できる制度である。

DB制度とDC制度の間に位置する制度としては、DB制度の給付算定方式に一つであり、2014年度から導入可能となった実績連動型キャッシュバランスプラン(CB)もある。この実績連動型CBとの比較においても、リスク分担のあり方には違いがある。「リスク分担DB」は、実績連動型CBよりも、企業のリスク負担が軽く、加入者・受給者の負担が重い制度として位置づけられるのである。

もちろん柔軟性を活かして企業の負担を高めることは可能であるが、実績連動型CBが掛金元本を企業が保障するのに対し、「リスク分担DB」では掛金元本が明示的に保障されている訳ではなく、元本を割り込む可能性があるという点で、よりDC制度に近い制度であると理解できる。

DB 図4

◆「リスク分担DB」を導入する意義とは?

「リスク分担DB」は、企業と加入者との間でリスクを分担できる制度であり、また、分担割合を企業の実情に合わせて柔軟に設定できるところに特長がある。これまでにない企業年金制度であり、多様化する企業ニーズに一定程度応えられるという点で、導入意義が認められる。しかし、企業年金制度を比較する上では、リスク分担以外にも考慮すべき観点はあろう。以下では、運用リスク以外の観点で、「リスク分担DB」の導入意義を確認する。

昨今、DB制度からDC制度への移行が進みつつある。DB制度は2011年度をピークに導入件数や加入者数は減少傾向で推移しており、その一部がDC制度へと移行されているものと推測される。こうした動きの背景には、DB制度の運営負担が企業にとって重いことが挙げられる。

運用リスクを全額負担することはもちろんのこと、DB制度の積立過不足を企業会計上でも認識しなければならず、DB制度の不足額が企業の純資産に比べ多額となる場合には、企業経営に大きな影響を及ぼし兼ねないためである。一方で、着実に導入件数や加入者数を伸ばすDC制度については、運用リスクや企業会計上の面での負担はなく、企業にとって好都合のようにも思われる。

しかしながら、公的年金を補完する退職後の所得保障機能として捉えると、少なからず問題はあろう。以下では、公的年金の補完として捉えたとき、DC制度にどのような課題があるかを確認しながら、「リスク分担DB」の導入意義を考えたい。

DB 図5