「リスク分担DB」を導入するにあたっての課題

繰り返しになるが、「リスク分担DB」に内包される特長、つまり柔軟なリスク分担機能が活かされるためには、「財政悪化時に想定される積立不足」について、ある程度の幅が認められる必要があろう。この新しい制度案を検討するに際しては、オランダの集団型DC(CollectiveDefinedContribution)が参考にされているようである。

ちなみに、この集団型DCは、最低でも年金負債の5%分のリスクバッファーを積むことが求められている。「財政悪化時に想定される積立不足」は、運用などのリスクの測定を通じて決定されるものとして検討が進められている。このため、各DB制度に共通の幅が設定される訳ではないが、多くの「リスク分担DB」で、少なくとも5%程度のリスクバッファーが確保されることを念頭に置いて測定ルールの詳細が決定される可能性があろう。

この他、「リスク分担DB」の普及・拡大を図る上では、企業会計上でどのような取扱いとなるかも、極めて重要なポイントとなる。会計上の取扱いに関しては、DB制度である以上、他の給付算定方式と同様に、年金制度の積立過不足は企業会計上で認識するのが原則とも考えられる。

ただし、会計基準の考え方によれば、リスク分担型DBのように事業主による拠出額が固定されており、追加的な拠出が求められない制度であれば、企業会計上で負債を認識する必要は必ずしもないとも解釈できる。企業会計上の取扱いに関しては、企業会計基準を策定する企業会計基準委員会の判断に依存するが、企業会計上で認識するか否かは、企業にとっては大きな違いであることから、DC制度と同様に、認識不要となるような調整が望まれる。

ガバナンスに関しては、昨年の企業年金部会において、DB制度のガバナンスのあり方が議論され、一部で合意が見られている。しかし、「リスク分担DB」は、給付減額という形で加入者や受給者に一定の負担を強いる制度である。このため、他の給付算定方式によるDB制度よりもガバナンスの強化を図ることが必要であり、この点に関しての検討もされている。厚生労働省が示すガバナンス案のポイントは以下の通りである。

1)加入者が運用の意思決定に参画できるよう、業務の執行を行う理事会又は事業主に対して提言等を行う委員会を設置し、加入者の代表が参画することを義務化
2)運用が加入者の意向に沿って行われるように、事前に運用基本方針や政策的資産構成割合の策定を必須とし、委員会に参画する加入者代表が運用実績の詳細等を確認することを促進
3)加入者だけでなく受給者に対しても、年1回以上の業務概況の周知を義務化

新たに制度を導入する以上は、一定の普及が見込めること、そしてそのためには、企業だけでなく、加入者や受給者にとってもメリットが認められることが必要である。その意味では、より適切な運営が長期にわたって維持されるようにガバナンスについての議論を深める必要がある。

以上のように、「リスク分担DB」には一定の導入意義が認められる。しかし、この新しい制度の普及・拡大を図る上では、一定の柔軟性を確保すること、DC制度と同様に企業会計上での負債認識が不要となること、そして制度導入後に支障を来たす事のないようにガバナンスの強化が図られることが欠かせない。これらが実現され、多様化する企業ニーズに対応するとともに、企業年金全体として公的年金の補完機能が高められることを期待したい。

梅内俊樹
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 企業年金調査室長

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