まずは、世代間の公平性に関わる課題である。給付額が運用実績に完全にリンクするDC制度では、給付額が加入期間における経済・金融市場の影響を受け易い。加入期間が好況時と重なればより有利な運用が可能となり、結果として想定を上回る給付を確保することが可能である。

しかし、加入期間中に重大な金融危機に見舞われれば、給付額の目減りは避けられない。このような事態は、個人の能力では決して回避できないリスクであり、退職後の所得機能としては、頑健性や世代間の公平性という点で問題がないわけではない。また、世代内においても退職後の給付額に大きな格差が生じ兼ねないという課題がある。

DC制度では個々人が自己責任のもとで運用商品を選択し、運用結果が将来の自らの給付額に反映される形で運用リスクを全額負担する制度である。この仕組みは、個人の自由な意思決定を運用に反映できるというメリットがある反面、全ての加入者が効率的な投資判断ができるほど十分な投資関連知識を有している訳ではないといった課題がある。

実際、厚生労働省の調べによれば、DC残高の6割は預貯金などの足元ではほとんど利息を生まない元本確保型商品で運用されており、DC制度導入時に企業が想定する給付額を確保できない可能性が高まっている。また、DC制度への認知も十分ではなく、自分がどのような商品に投資しているかを説明できない加入者が、全体の4割にものぼる状況である。

こうした課題に対しては、継続投資教育の充実や加入者が運用商品を選び易くする環境整備などの法改正を通じて一定の改善が図られつつある。しかし、こうした対応策にも限界があり、全ての加入者に効率的な運用を実践させることは難しい。

結果的に、世代内に重大な格差が生じ兼ねないことが懸念されるのである。福利厚生の一環としてDC制度を導入するのであれば、企業としてもこうした格差は極力抑えることが望ましい。公的年金の補完として考えるのであれば尚更である。

これに点に関しては、複数資産の組み合わせ等によりリスクが分散された運用商品をデフォルトファンドに設定することを企業に促し、運用指図をしない人や積極的に運用商品を選択しない人を当該商品に誘導するといった対応が具体化しつつある。こうしたデフォルトファンドの設定は、格差を縮小し、誰しもが最低限の給付を確保できるようにする上で有効な手段と考えられる。

しかしながら、個人単位での運用では、そもそも効率的な運用ができないという課題もある。個人単位での運用の場合、積立金を取り崩す受給期が近づくに連れて、運用リスクを引下げざるを得ない。受給開始直前に多額の損失を被れば、将来の給付に大きな影響を及ぼすためである。しかし、効率的な運用ということだけを考えるのであれば、最適ポートフォリオの資産構成比率を維持するのが望ましい。

また、一般に、DC制度向けの運用商品は運用機関に支払うフィーが高いといった課題も指摘される。以上を踏まえると、DC制度は運用効率の面で万全とは言えないのである。これに対してDB制度は、世代間の公平性が一定程度確保される仕組みと考えられる。

DB制度の給付算定方式には、加入期間比例、給与比例、ポイント制など、幾つかのバリュエーションがあるが、物価や賃金が上昇すれば、多少のタイムラグはあるにしても企業も給付増額に向けた対応を検討せざるを得ないという点では共通であろう。その意味では、実質ベースの給付額は世代によらず概ね一定の水準を確保され易いと言える。

もちろん、給付減額により公平性が損なわれることも想定される。しかし、この点については、給付減額の可能性の低下にも資するように、事前のリスクバッファーを積むことを許容する掛金拠出の弾力化が検討されているところである。この他、給付額が保障されるDB制度では、少なくとも運用成果によって給付額に格差が生じることはなく、世代内の公平性が損なわれる程度は小さい。

DB 図6

また、全ての加入者・受給者の積立金を一つにまとめる合同運用であるため、原則として受給期を意識する必要はない。運用フィーが相対的に低廉というメリットもある。このため、長期にわたり安定的で効率的な運用を志向できるのである。このように世代間・世代内、あるいは、運用効率という観点では、DC制度に比べ、DB制度の方が優れる。

では「リスク分担DB」はどうであろうか。「リスク分担DB」はあくまでもDB制度であるため、積立金は合同運用される。このため、運用効率の面では、他のDB制度と同様、DC制度よりも優れた特性を有する。また、DC制度と異なり、世代内で格差が生じることもない。一方、世代間の公平性の観点では、他のDB制度と比べると、格差が生じ易い構造にはある。

しかし、一定程度企業がリスクを負担する制度であるため、DC制度よりは格差が生じにくいと考えることもできる。こうした観点においても、「リスク分担DB」はDB制度とDC制度の間に位置する制度と捉えられるのである。

DB制度から「リスク分担DB」への移行が進むのであれば、DC制度へのシフトを抑制することにも繋がるため、公的年金の補完という役割を企業年金制度が担っていく上でも望ましいことであると考えられる。なお、企業年金制度は企業が任意に行う制度であり、制度選択は労使の判断に委ねられるものであるという大前提がある。

このため、仮にDC制度に弱点があったとしても、それをもってDC制度の導入が問題であるとまでは言えない。しかしながら、DC制度を所得保障として有効に機能させるためには、社会的な取組みとして個々人の金融リテラシーを底上げする取組みが必要であることについては確認しておきたい。