三菱日立パワーシステムズ誕生
2014年2月1日に三菱重工業と日立製作所の火力発電プラント事業が統合され、新会社「三菱日立パワーシステムズ」として発足しました。日本最大というスケールメリットと、世界最高水準の技術を武器に、世界2強として君臨する米ゼネラル・エレクトリック(GE)と独シーメンスに挑みます。
社長には三菱重工の西沢取締役常務執行役員が就任され、本社所在地は三菱重工業の本社所在地です。出資比率も日立の35%に対し、三菱重工が65%となります。社名からも窺えるように、名実ともに三菱重工色の強い体制となります。
それも当然のことで、既に三菱重工業は米ゼネラル・エレクトリックと独シーメンスに次いで世界3位の地位を確固たるものにしているのに対し、日立製作所の火力発電事業の主戦場は国内で、中小型ガスタービンが主力です。
市場も規模も異なる2社の火力発電事業が、今回の統合に至った理由は何でしょうか。
①なぜ統合に至ったか
三菱重工社長である宮永氏の発言を紐解くと、現状の課題が浮かび上がります。重要なキーワードは「コスト削減」です。
火力発電事業を本体から切り離すことでコスト削減を進めなければ、営業利益率で10%を超えるGEやシーメンスを追い越すことなど出来ません。 コスト削減は、人件費抑制と言い換えることもできます。ですが、赤字が出ているわけでもない事業に対するコストカットを説明できる合理性が必要です。日立の火力事業を取り込む事で本体から切り離すという「お題目」が必要であったわけです。
日立は欧州・アフリカ地域に強みを持ち、三菱重工は東南アジアや中東に強みを持ちます。地域においても相互補完的であり、親会社同士の関係を毀損するものではありません。 さらに、日立は中小型ガスタービンや蒸気タービンに強みを持ち、三菱重工は大型タービンに強みを持ちます。製品ラインナップの拡充は総合力強化に繋がります。
日立はIGCC(石炭ガス化複合施設)で強みを持ちますが、三菱重工と事業領域が重なります。国内での消耗戦を避けたいとの思いが、統合を後押ししたと考えられます。さらに日立には蒸気タービンに関する品質トラブルという、単独での解決が困難な問題に直面していることも影響している可能性があります。
三菱重工はデンマークの風力発電メーカーであるヴェスタスとの合弁設立を決めるなど、多方面でGE、シーメンスと競っています。財務強化は自分より規模の大きい企業と競う上で喫緊の課題です。
②野心か保守か
この統合には、GE・シーメンスに追い付き追い越すという野心的な面と、縮小する国内市場に対する危機感や消耗戦を避けるという保守的な面が共存しています。
国内の最大顧客である電力各社は、原発停止・円安・資源高という三重苦により赤字転落するなど、発電施設の発注者として陰りが見え始めています。 電力会社の発注条件は今後も益々厳しくなります。随意契約見直しにより、コストで競い合うことになります。事実、中部電力のガス火力発電所のシステム入札では、東芝と組んだGEがコストで優位に立ち受注を決めています。今後は国内市場においても、海外メーカーとのコスト競争にさらされるということです。