出生率引き上げに替わる人口減少対策は?
わが国の労働力人口は早くも1998年(約6800万人)から減少し続けている。2014年3月に発表された内閣府の長期予測によれば、最も悲観的なシナリオの場合、労働力人口は2060年に3800万人弱と今より42%減少し、これにより潜在成長率は年率0.9%押し下げられるという。こうした事態に対処するメニューとして通常挙げられるのは、①潜在労働力の有効活用、②出生率引き上げ、③外国人労働力の導入の3つだ。
このうち、①の就労促進は当面最も実行しやすい対策とみられている。子育てのため退職して家庭に戻る割合の高い30歳代の女性達や定年などで退職した60-70歳代の高齢層の労働力率を可能な限り引き上げようというものだ。ただ、この効果は労働力の予備プールにたまっている水を汲みつくした時点で消えてしまう。今後2060年にかけて3000万人近く減少する労働力を補填するには心もとない規模と言わざるを得ない。
②に関してはフランスや北欧諸国の成功例を横目に日本政府も遅ればせながら、出産促進対策に本腰を入れ始めた。しかし、上に見た人口減少のメカニズムを念頭に置くと、その効果に大きな期待は持てない。仮に長期で見て少々の効果があったとしても、世界人口の激増という大波の中ではどれほどの意味を持ち得るだろうか。
さらに言えば、出生という極めて私的な意思決定に政府が介入し、誘導することがどこまで正当化できるのかという基本問題も素通りすべきではない。国民一人ひとりがその理想とする子供数を実現できる環境を用意するのは政府の役割だろう。しかし、それを超えて国家として必要な子供数を実現しようとするのは、戦前・戦中の「産めよ増やせよ」を思い出させる前時代的政策と言えよう。
長期的に不可欠な外国人労働力政策へのコンセンサス
残された最後の切り札は、③の外国人労働力だ。ここには常に、治安悪化、文化的摩擦などへの不安を理由とする根強い抵抗感が存在する。
昨今命がけでEUを目指すシリア難民の報道に同情の目を向ける日本人は多いが、日本への受入れとなると、ほとんど現実味のない話となる。地理的に不可能と言うより、労働市場開放という難民以前の問題があるからだ。2009年のデータながら、日本の労働力人口総数に占める外国人の割合は1%に過ぎない。これに対しEU主要国ではドイツ、イギリス、フランスでそれぞれ約9%、7%、6%。善かれ悪しかれ「移民問題」に関する経験値の差は余りにも大きい。
我が国の外国人労働者政策の基本姿勢は「慎重な選別的開放」、すなわち専門職や熟練労働はよいが、非熟練労働者は原則受けいれないというものだ。バブル経済下の人手不足を契機に何度かの入管法改正を通じて次第に門戸は広がってきた。しかし、一貫した目標のビジョンと長期戦略を欠いた場当たり的対応との批判は少なくない。