確定拠出年金法
(写真=PIXTA)

◆国会は安保法案の余波で、多くの法案が継続審議となったが、確定拠出年金法の改正案もそのひとつである。一方、平成28年度予算は各省の概算要求が出揃い、医療・年金関連の要求は、高齢化に伴い引き続き増加している。また、年金関係税制では、厚生労働省等から各種年金制度の利便性向上等に向けた要望が、引き続き出されている。

今年の国会(第189回国会)は1月26日に始まり、95日間の会期延長の末、終盤は安保関連法案がもめにもめた末、やっと成立して9月27日に閉会した。その余波を受けて、今国会で提出されていたいくつかの法案が取り残された。法案の成立率は88.0%(66法案/75法案)と、昨年(97.5%)を大幅に下回った。

年金関係では、確定拠出年金法の改正法案が継続審議となった。これは、個人型確定拠出年金の加入範囲の見直し(専業主婦や企業型確定拠出年金加入者に拡大)や小規模事業者掛金納付制度の創設などを内容とするものである。

9月3日に衆議院は通過したものの、参議院本会議での採決に至らず、継続審議ということになってしまった。というか、廃案となることなく、次期臨時国会で審議されることが議決されたのだから喜ぶべきことであろう。しかし、例えば、加入範囲拡大は平成29年1月からと予定されているが、スケジュール通り進められるのかは不透明である。

さて、平成28年度予算案に向けた議論が始まっている。8月末に出された各省の概算要求においては、一般会計予算が102兆4,000億円という規模になり、2年連続で100兆円の大台を超えた。もっとも、27年度予算は審議の結果、96兆3,420億円となったように、28年度予算も今後絞り込まれることになろう。

各種年金制度に関わるものとしては、歳出の中では年金財源など、また、歳入の中では税制改正の議論が主なものであり、いずれも厚生労働省が主体となり要求している項目である。その厚生労働省の要求額は30兆6,675億円で、対前年2.5%増加となっている。このうち年金・医療等に係る経費は28兆円7,126億円で、増加要因のうち高齢化等に伴う増加額は、6,700億円と見積もられている。

年金支払財源は、このほかに特別会計で63兆円5,498億円(対前年度4.6%増)が要求されている。今回は詳しくは触れないが、このあたりには複雑な仕組みがあって、一般会計と特別会計の合計が年金給付の規模というわけではないのだが、高齢化等によって年々支払規模が増加している一端を見ることができる。

また、医療関係を除いた年金のみに関する予算は、以下のような項目と金額からなっている。(カッコ内は27年度要求額)

(1)持続可能で安心できる年金制度の運営・・・11兆2,336億円(11兆469億円)
(2)正確な年金記録の管理と年金記録の訂正手続の実施・・・29億円(45億円)
(3)日本年金機構による公的年金業務の着実な実施・・・2,993億円(2,766億円)
(4)日本年金機構における不正アクセスによる情報流出事案を踏まえた情報セキュリティ対策・・・25億円(今回の新規項目)

一方、税制改正要望についても、来年度に向けて厚生労働省から以下のような要望が出されている。

◇確定給付企業年金の弾力的な運営等に係る税制上の所要の措置(所得税、法人税等)(これは金融庁も要望している)

◇年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のガバナンス態勢の見直しに伴う税制上の所要の措置(所得税、法人税等)また、民間の業界団体もこの時期から税制改正要望の活動を始める。年金関係の税制については、生命保険協会と信託協会が主役である。どちらも同じ主旨の要望をしているので、項目が多くより具体的な信託協会の要望を紹介する。

◇企業年金信託等に関する税制について、次の所要の措置を講じること

(1)企業年金および確定拠出年金の積立金にかかる特別法人税を撤廃すること。

(2)確定給付企業年金における従業員拠出についての掛金所得控除制度を創設すること。

(3)確定拠出年金における従業員拠出および拠出限度額を引き上げること。

(4)確定給付企業年金および厚生年金基金における過去勤務債務等に対する事業主掛金について、一層の弾力的な取扱いを可能にすること。

(5)確定給付企業年金制度(基金型)における予算に基づく特例掛金拠出を可能にすること。確定給付企業年金制度(規約型)においても同様の拠出を可能とすること。

(6)退職一時金制度から確定拠出年金制度への資産移管の方法について、一括移管を可能とすること。

(7)確定給付企業年金および確定拠出年金における遺族給付(遺族年金、遺族一時金および死亡一時金)に関し、厚生年金と同様に相続税を非課税とすること。

(8)厚生年金基金制度の見直しに伴い、解散した厚生年金基金からの分配金を他の制度へ非課税で移管することを可能とすること等の措置を講じること。

年金関係の施策が、国民にとって重要であることには間違いない、と我々年金・医療関係者は思うのだが、どの省庁も業界も、それぞれ自分の担当する世界が重要だと思って取り組んでいるわけである。また、歳入の水準を確保するためには、ある優遇措置によって減少する税金は、どこか別のところで確保しようとする(例えば、優遇措置の廃止)動きも考えられ、ある種の「財源の取り合い」とも言える。

今回の年金制度関係では、社会的に大きな話題になっている項目が無いので、要望がすんなり認められるとは思えない。それでも他に優遇廃止方向の税制があることを考えれば、年金関係分野は、大きな方向性としては、自助努力を後押しするといった考え方から、税制優遇が拡大される傾向にある。厚生労働省や保険・信託を始めとする関連業界には、要望実現に向けて頑張ってもらいたいものである。

安井義浩
ニッセイ基礎研究所 保険研究部

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