中国の習近平総書記が指摘する「新常態」。党五中全会(党中央委員会第5回全体会議)で「新常態」という言葉が随所で繰り返されたのは記憶に新しい。「新常態」は「反腐敗運動」と並ぶ、習近平指導部が提唱する持続可能な成長モデルを構築するための大前提といえる。では、中国経済が直面する「新常態」とは具体的に何を指しているのだろうか。今回より、日中産学官交流機構・特別研究員の田中修氏に「第13次5ヵ年計画建議」を読み解いて頂く。まずはその大前提となる「新常態」について解説して頂こう。


第13次5ヵ年計画建議を読み解く(1)

10月26日から29日に開催された党5中全会は、第13次5ヵ年計画党中央建議を採択した。11月3日に公表された習近平総書記による党中央委員会に対する建議案の説明で、習総書記は、「第13次5ヵ年計画は、わが国の経済発展が新常態に入って後の最初の5ヵ年計画である」とした。では、この「新常態」とは何であろうか?

もともと「新常態」は、米国の新たな経済情況を説明する「ニュー・ノーマル」の訳語である。しかし、中国の「新常態」は、これとは異なるニュアンスで用いられている。そもそも、この言葉は習近平総書記が昨年5月に言い出したものであり、その後12月、党中央・国務院共催により開催された中央経済工作会議において、中国経済の現状を説明する言葉として、党中央・政府によって正式に認知された。


中国経済が直面する9つの趨勢的変化

この中央経済工作会議では、経済の「新常態」について、詳細な説明がなされた。まず、会議では「現在中国経済に9つの趨勢的な変化が生じている」と指摘する。9つの趨勢的な変化とは、すなわち、①消費、②投資、③輸出、④生産能力・産業組織、⑤生産要素の優位性、⑥市場競争、⑦資源・環境の制約、⑧経済リスク、⑨資源配分・マクロ・コントロールである。

「①消費」については、従来の模倣型・横並び式の画一的な消費から、個性化・多様化した消費へと主流が移っている。「②投資」は伝統的な重厚長大産業が、過剰投資を続けたことにより相対的に飽和状態になり、新技術・新製品・新業態・ニュービジネスモデル等への投資機会が大量に増えている、とそれぞれの見解を示している。「③輸出」については賃上げや元レートの切上げにより、中国の低コストという比較優位性に変化が発生しており、新たな比較優位性を早急に育成しなければならない、としている。