数量拡大・価格による競争から質・差別化による競争へ

また、「④生産能力・産業組織」については、伝統的な重厚長大産業が大幅な供給超過となっており、新興産業、サービス業、小型・零細企業の役割が重視されるようになり、生産の小型化・スマート化・専業化が進んでいる、との見解を示した。

「⑤生産要素の優位性」は、人口の高齢化・農業余剰労働力の減少により、労働力の低コストの優位性が減殺されており、経済成長が人的資本の向上や技術進歩により多く依存するようになっている。加えて、「⑥市場競争」については、これまでの数量拡大・価格による競争から、質・差別化による競争に転換しており、全国的な市場の統一と資源配分効率の向上が必要、との認識を明らかにしている。


経済成長の下降で各種リスクが顕在化

「⑦資源・環境の制約」は環境の受容能力が既に限界まできており、グリーン・低炭素・循環発展の推進の必要性を示した。さらに「⑧経済リスク」については、経済成長の下降に伴い、各種の隠れた経済リスクが徐々に顕在化(たとえば、主要産業の過剰設備、シャドーバンキングの拡大、地方政府・企業の債務増大、住宅市場の不安定化)し、各種リスクを解消する健全な体制メカニズムが必要となっている、との見解を示した。

そして、最後の「⑨資源配分、マクロ・コントロール」については、全面的な景気刺激政策の効果が次第に減少しており、政府ではなく市場メカニズムにより将来の産業発展方向を模索するとともに、マクロ・コントロールも総需給関係の新たな変化に科学的に対応しなければならなくなっている、との見方を示した。


中央経済工作会議が再整理する「4つの転換」

以上の9つの観点から見た中国経済の趨勢的変化を、中央経済工作会議はさらに4つの転換に再整理した。すなわち、4つの転換とは、①経済発展、②経済発展方式、③経済構造、④経済の発展動力の転換である。

具体的には、「①経済発展」は高速成長から、中高速成長へ転換。「②経済発展方式」とは規模・速度を追求する粗放な成長から、質・効率を重視する集約的成長への転換。「③経済構造」については、フローの大きさ・生産能力拡大を主とするものから、ストックの調整・フローの最適化が併存する深い構造調整へ転換。「④経済の発展動力」とは主として資源・低コストの労働力等の投入への依存から、イノベーションによる駆動への転換である。

つまりこの4つの転換が同時に進んでいる状態が、中国経済の「新常態」ということになる。これを受け、習近平総書記は党5中全会において、新5ヵ年計画は「新常態を認識し、新常態に適応し、新常態をリードしなければならない」としたのである。

【筆者略歴】田中修(たなか・おさむ) 日中産学官交流機構 特別研究員
1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月〜9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。2014年4月から中国塾を主宰。学術博士(東京大学)。近著に「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)、「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)、ほか著書多数。

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