ソルベンシーⅡ導入に伴う影響とそれへの対応
ここでは、ソルベンシーⅡの導入に向けての、これまでのスウェーデンの生命保険会社及び保険監督当局の対応について報告する。
◆リスクフリー・レート設定方式の特別取扱
ソルベンシーⅡを巡るスウェーデンの状況を考える場合、責任準備金を算出するためのリスクフリー・レートにおいて、特別な取扱が認められていることが、大きな特徴として挙げられる。具体的には、ソルベンシーⅡでは、市場で得られない超長期の金利を設定する場合に、UFR(終局フォワードレート)の考え方を採用しているが、スウェーデン・クローナについても、ユーロと同様に4.2%のUFR水準が認められている。
一方で、このUFRへの収束方法について、EIOPAの原則的な考え方に従えば、CP(収束期間)は、LLP(最終流動性点)との合計で60年(ただし、最低40年)なければならない。ところが、スウェーデン・クローナについては、LLPが10年であるにも関わらず、10年のCPが認められている。
これについては、スウェーデンの債券市場が10年を超える期間では流動性がないこと等を理由に、正当化されている。一方で、同様な状況にあるとされているノルウェーでは、LLPは同じく10年であるものの、CPは他の通貨と整合的に50年(LLPと合わせて60年でフォワードレートがUFRに収束)と設定されている。
このため、両国間の整合性等を問題視する意見がある。こうした違いは、それぞれの監督当局のスタンスを反映したものである。即ち、スウェーデンの監督当局であるFIは、EIOPAに働きかけを行った結果として、特別な取扱が認められている。これに対して、ノルウェーの監督当局であるFinanstilsynetは、そのような要求を行ってこなかった。
いずれにしても、スウェーデンの生命保険会社は、20年間という短い期間(他のEU諸国は最低60年間)でフォワードレートを4.2%というUFR水準に収束させることができる。このため、長期の割引率が安定化し、期末金利の変動による責任準備金評価のボラティリティが軽減される形になっている。
加えて、現在のような低金利環境下で、4.2%という高いUFR水準を、経過20年から適用することができるため、責任準備金評価額の軽減という、大きな効果を得ることができる形になっている。
このような取扱が、スウェーデンのみに認められていることについては、その合理性や妥当性の是非はともかくとして、欧州各国間の保険会社のソルベンシーを比較する上で、本当に公平なものといえるのかという点については、疑問のあるところだろう。
◆高いリスク性資産の保有比率による影響とそれへの対応
スウェーデンの生命保険会社は、生命保険会社の資産運用の状況で述べたように、株式等のリスク性資産への運用占率が相対的に高いことから、ソルベンシーⅡの導入に伴い、他国に比べて、より高い資本水準を要求されることになる。これは競争上不利に働く形になる。
ただし、こうした資産運用の状況は、短期的に容易に変更することはできないものである。スウェーデンの生命保険会社も、リスク性資産への一定程度の投資を継続する方針を、変更する意図はないように見受けられる。むしろ、資産と負債のデュレーション・ミスマッチへの対応も含めて、資産サイドだけの問題としてではなく、負債サイドの商品特性を変更していくことで、対応していくことを企図しているようである。
FIもこうした状況を理解した上で、リスク性資産の圧縮等に向けた取組みを生命保険会社に促しているわけではなく、むしろ、将来の老後保障のための年金の資産運用としては、長期的観点から一定程度のリスクをとって高い収益を追求していく取組みを後押ししているように見受けられる。
◆ソルベンシーⅡにおける各種経過措置の適用に関する動向
リスクフリー・レートの算出において、リスクフリー・レート設定方式の特別取扱で述べたような特別取扱が認められていることもあり、ソルベンシーⅡにおける責任準備金評価の際の、各種の影響緩和措置や経過措置の適用(*13)については、他の欧州諸国に比べて、その必要性は比較的乏しいものと考えられる。
実際に、少なくとも、本来的な割引率に基づく責任準備金評価に16年間かけて収束させることが許容される「移行措置」については、適用する会社はない、と想定されている。
その他のマッチング調整(MA)やボラティリティ調整(VA)については、適用を考えている会社もある模様である。しかしながら、FIは、スウェーデンの債券市場の現状から判断すれば、マッチング調整(MA)の要件を充足することは難しい、と考えているようである。