今後の課題とまとめ

以上、スウェーデンの生命保険市場の概要と、低金利環境下におけるソルベンシーⅡへの生命保険会社及び保険監督当局の対応状況等を述べてきた。

職域年金保険を中心とする貯蓄・投資型商品の提供という形で、生命保険会社は、高福祉国家を民間の立場から支えてきたが、歴史的な低金利環境下で大きな課題を抱えている状況にある、といえる。今後もスウェーデンが高福祉国家としての地位を維持していくためには、生命保険会社の財務の健全性を堅持していくことが、国家的にも重要な課題であると考えられる。

◆低金利状況下でのソルベンシーⅡ基準充足に向けての課題

他の多くの欧州諸国と同様に、スウェーデンの生命保険市場では、年金等の貯蓄性商品が主力となっている。このため現在のような低金利環境下で、生命保険会社の経営は大きな影響を受ける状況になっている。

一方で、そもそもユニット・リンク型商品のウェイトが一定程度高かったこともあり、現時点では会社全体としてみれば、影響度がそれほど大きいわけではない、とも認識されているようである。さらには、リスクフリー・レート設定方式の特別取扱で述べたように、スウェーデン独自のパラメータによる補外によって、リスクフリー・レートを算出することが特別に認められていることにより、実質的に責任準備金積立額の負担軽減が図られている。

これにより、他の北欧諸国、例えばノルウェーに比べれば、ソルベンシーⅡによる資本基準を満たしやすい状況にある、という意味において、表面上は比較的余裕がある状況に見えている。ただし、重要なことは、新たなソルベンシーⅡ規制による基準を、形式的に満たしていくことではなく、実質的に、リスクに対応した適正な資本水準を確保し、収益性のある事業を展開しているのか、という点にある。

具体的には、昨今の低金利環境下で、①どのような保険商品を、どのようなリスクを会社が保有する形で、顧客に提供していくのか、という負債サイドの管理の問題、②長期の確定利付投資商品の市場が限られている中で、株式や投資信託等のリスク性資産の運用において、リスクを管理しつつ、適正な運用収益をいかに確保していくのか、という資産サイドの管理の問題、③保険負債の特性に応じる形で、適正な資産運用が行えているのか、という資産と負債のマッチングの問題、等に適切に対応できているのかという点が、結局は問われてくることになる。

その意味では、現在進められているERM(Enterprise Risk Management:統合的リスク管理)やORSA(Own Riskand Solvency Assessment:リスクと資本の自己評価)を、これも形式的にではなく、実質的に意味ある形で、着実に推進・充実させていくことが重要になっているといえる。

◆ソルベンシーⅡ見直しの動きを踏まえての対応の必要性

そもそも、これから、EIOPAにおいて、UFR水準の見直し(引き下げ)を行うか否かが議論されていくことになっている。実際に見直しが行われた場合には、その改訂方式等にもよるが、スウェーデンは最も大きな影響を受ける国として注目されることになる。

スウェーデンの生命保険会社は、現在のリスクフリー・レートに関する特別取扱に甘んじることなく、こうした状況に対応できるように、着実に必要な方策を講じていくことが求められているといえる。