ビールと発泡酒と第3のビールの酒税額が同じになるーー。ビール業界に激震が走ったこの酒税一本化がひとまず先送りとなり、ホッと胸をなで下ろした愛飲家も多かったことだろう。しかし、その一方で「 ビール税20年戦争」 にピリオドを打てなかったことに失望する向きも少なくない。酒税一本化の先送りがもたらすものとは一体何か。歴史を振り返りながら紐解いていきたい。


「今回はただの見送り」流れは変わらず

ビールの細分化が始まったとき「ビール税20年戦争」も始まった。現在、ビール類の税額は350ミリリットル缶の場合、ビールが77円、麦芽比率25%未満の発泡酒が47円、麦芽不使用の商品もある第3のビールが28円となっている。今夏、これらの税額を政府が全体の税収が変わらない水準の55円に統一するというニュースが駆け巡った。まるで決定事項のようにメディアで扱われたこともあったが結局、2016年度の税制改正では見送られることとなった。ビール業界との折衝が予定通りに運ばなかったことと、本格化する軽減税率の制度設計をめぐって与党協議が難航したことも一因とみられている。

また、有権者の反発に配慮した側面も大きい。ビールについては税額が下がるものの、安価で楽しめる発泡酒や第3のビールは軒並み増税。ビールしか飲まないというごく一部の人を除いた大多数の国民にとっては一大事だった。税制改革の推進力を犠牲にしても、来夏の参院選に与える影響を懸念しての決定だったと言える。ただし、政府は今年度の税制改正大綱に将来的には一本化する方針を明記している。つまり、今回は見送ったものの、税額が一本化する流れが変わったわけではないのだ。

政府が一本化をめざす理由は、これ以上の税収減を食い止めたいから。では、なぜ税収が減っているのか。その背景に「ビール税20年戦争」がある。


メーカーと国税局の20年にわたる争い

「ビール税20年戦争」とは、ビールメーカーと国税局との間で行われてきた、20年にわたる商品開発と税制改正の攻防戦のこと。法律内での技術革新に挑んでメーカーが成果をあげると、国が法律を変えて税収の確保に動く。まさに「いたちごっこ」と揶揄される消耗戦がこの国では20年間も繰り広げられてきた。

発端は21年前の1994年。サントリーが発売した「ホップス」という商品だ。酒税法上のビールの定義が「原料全体に占める麦芽使用料が3分の2以上」であることから、麦芽の割合を65%に抑えた安価な商品をリリースした。これが発泡酒の誕生である。他のメーカーもこぞって発泡酒を開発・発売し、晩酌のお供の座はビールから発泡酒に変わった。しかし、減りゆく税収を国税局も指をくわえて見ていたわけではない。「麦芽使用比率50%以上67%未満の区分」の酒税をビールと同じにするという反撃を行う。

国内メーカーも黙ってはいない。「麦芽使用比率25%未満の区分」という、酒税は安いものの当時の常識で考えたら「美味しいビールができるはずのないフィールド」の開拓に乗り出し、そこでも国民に支持される発泡酒をリリースする。それに対して国税局はまたしても発泡酒を増税した。だが、国内メーカーは踏ん張る。第3のビールの開発に成功したのだ。