J-REITの運用状況と3つの運用戦略

J-REITは、エクイティ資金及び借入金を調達して賃貸不動産に投資し、賃貸事業収益(賃料収入-賃貸事業費用、Net Operating Income、以下NOI)を原資に利益のほぼ全額を分配金として投資家に還元する仕組みである。投資家のエクイティ持分は東京証券取引所で日々売買できるため流動性が高く、小口資金での不動産投資が可能となる。

7月末時点の運用不動産は市場全体で約3,000棟、金額にして13.7兆円に拡大している(図表―3)。

J-REIT市場3

アセットタイプ別の投資額(比率)は、オフィスビルが6.2兆円(45%)で最も大きく、商業施設2.6兆円(19%)、住宅2.4兆円(18%)、物流1.5兆円(11%)、ホテル0.5兆円(3%)の順に続く。

市場の成長に伴い投資対象の多様化が進み、最近ではオフィスビルの比率が低下する一方、インターネット通販市場の拡大などを背景に需要の高まる大型物流施設の取得が増加し、物流の比率が上昇している。また、昨年秋以降、有料老人ホームなど高齢者向け住宅を専門に投資するヘルスケアREITが新たに3社上場した。

運用不動産の拡大と多様化は、市場全体の不動産キャッシュフローの安定性を確実に高めている。しかし、規模拡大と多様化だけでは投資家が受け取る分配金の増加は期待できない。

テナントとのリレーションシップ強化や建物設備の修繕・更新など日々の管理運営をしっかりと行い、ポートフォリオ全体の品質と競争力を維持しなければならない。また、J-REITは借入金を活用して不動産を運用するため、財務の健全性を高めて信用力を強化することが大切だ。これらのファンドマネジメント機能を担うのが資産運用会社である。

資産運用会社は、①賃料や稼働率を引き上げるなどして既存物件の収益性を高める「内部成長戦略」、②エクイティ資金や借入金を調達し不動産を取得する「外部成長戦略」、③財務基盤を強固にして借入コストの低減する「財務戦略」、という3つの運用戦略をバランスよく駆使することで、1口当たり分配金の安定成長を目指す。

具体的には、①内部成長戦略のもと既存物件のNOIを拡大する、②外部成長戦略のもと既存ポートフォリオを上回る利回りで物件を取得する、③財務戦略のもと支払利息を削減する、という3つのルートを通じて総資産利益率(ROA)を高めて、分配金の増加に取り組むことになる(図表―4)。

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