◆内部成長戦略は分配金増加にマイナス寄与。今後のオフィス賃料上昇に注目
上述の通り、運用不動産のNOI利回りは改善基調にある。しかし、既存物件のNOIは減少しており、これまでのところ内部成長戦略は分配金の増加に貢献していない。2011年下期時点の保有物件(継続比較可能な1,613棟を対象)のNOIを100とした場合、2015年上期のNOIは94となり累計で6%減少した(図表―6)。
これを、運用不動産の約50%を占める「オフィスビル」と「オフィスビル以外のアセット」に分けてみると、「オフィスビル」のNOIが10%減少する一方、「オフィスビル以外のアセット」のNOIは安定推移している。これは、アセットタイプ毎に市場賃料の動きやテナントとの賃貸借契約内容が異なるためである。
一般に、オフィスビルやホテルの市場賃料は景気感応度が高く、上下に大きく変動する傾向が見られるのに対して、住宅や物流の市場賃料は景気に関わらず比較的安定している。また、オフィスビルや住宅の契約期間が通常2年に対して、商業や物流は5年から20年と長期にわたることが多い。さらに、商業やホテルは売上などに連動した歩合賃料を締結するケースもある。
三鬼商事の発表によると、オフィスビルの都心5区の平均募集賃料は2008年をピークに5年間で29%下落した(図表―7)。同様に、J-REITが保有するオフィスビルのNOIも市況悪化の後を追って2008年下期から2015年上期まで28%減少している。このように、J-REITのオフィスビル収益は市場賃料に連動したパッシブな動きが見て取れる。
現在、都心5区の募集賃料はオフィス需要の拡大やデフレ心理の後退などから22ケ月連続で前月比プラスとなり8.7%上昇している。また、ニッセイ基礎研究所の推計では、J-REITのオフィスビル賃料と市場賃料の乖離(賃料ギャップ)は個別ビル毎に差はあるもののこれまでの水準調整を経てほぼ解消したと見る。
今後は市場賃料の上昇を反映し既存ビルでもNOIの増加が期待できそうだ。