(写真=PIXTA)

「ローソン、銀行参入を検討」と日本経済新聞が報じたのは11月20日。会社は即座に自社の発表でないとリリースしたが、「企業としてのさらなる成長のため、様々な経営上の選択肢を模索」しているともコメントしている。

ATM手数料以外の収入も期待できる

既に全国1万2000のコンビニ店舗のほとんどにATM(現金自動預け払い機)を設置するローソンがなぜ今になって銀行業務に直接参入するのか。その最大の動機は、やはり日本の人口が2050年までに2割以上減ることによる国内市場の縮小だろう。

自前の銀行を持てばATM手数料の取り分が増えるだけでなく、周辺業務で稼ぐこともできる。2000年以降、コンビニATMは大幅に増えたが、今ではその目的が「集客」から「稼ぐ」ことに大きく変化している。

今後、人口減少が急速に進むなかで国内コンビニ事業は収益基盤強化の必要に迫られており、銀行業務参入はその選択肢のひとつになっている。昨年7月にファミリーマートがジャパンネット銀行と資本・業務提携に向けた協議を始めると発表したのもその一環だ。

背景にセブン銀行の成功例

ローソンの参入検討の背景にはセブン銀行の成功例もあるはずだ。同行は小売業の銀行参入の草分けで、01年4月に当時のイトーヨーカ堂とセブン-イレブンが主体になりアイワイバンク銀行として設立された。

当初は先行きを危ぶむ声も多かったが、その後、ATMの提携先をメインの支援行から他の大手行に広げ急速に成長した。バブル崩壊後、支店維持のための固定費を削減したかった大手行の思惑と合致したという時代背景もこれを後押ししたに違いない。

05年10月に現在のセブン銀に商号変更し、今年12月時点で約2万2000台の自社ATMと約600社の提携金融機関を擁する有力銀行に成長した。業績は好調。実質親会社のセブン&アイ・ホールディングスの16年2月期の業績予想でみると、セブン銀を主体とする「金融関連」事業の営業利益は前年比6%増の500億円。西武など「百貨店」の76億円やイトーヨーカ堂が中心の「スーパーストア」の206億円を大きく上回る見通しだ。グループ全体に占める営業利益の割合も14%と主力のコンビニ事業に次ぐ収益の柱になっている。

セブンイ-レブンと金融事業で大きな格差

これに対し、ローソン傘下でATM事業を運営するローソン・エイティエム・ネットワークスの今年8月中間期の営業利益は33億円でグループ全体の7%にとどまる。セブン銀と比べるとATM設置台数は約1万1000台でちょうど半分程度だが、営業利益では7分の1程度と大きく水を開けられている。自前の銀行を持たないことも大きな要因だろう。

金融事業はシステム費用などの固定費が大きいため、セブン銀と同水準の収益性確保は無理としても、銀行業務参入が実現すれば利益率が大きく改善すると見込まれる。

「後発」のローソンが成功するにはまずATM1台当たりの収入を増やすことが先決だ。というのも、自前の銀行ならローンなど他の金融業務を行えるようになるが、今年で参入15年目となるセブン銀でもATM手数料以外の収入は全体の7%に過ぎず、おそらく収益性も低いからだ。

セブン銀のATM1台当たりの手数料収入は250万円強。これに対し、ローソン・エイティエム・ネットワークスのそれは110万円強と半分未満にとどまっている(いずれも今年上半期のATM営業収益と同期末の設置台数で算出)。

「ローソン銀行」の成功には提携拡大が必要

収益を伸ばすのに最も手っ取り早いのは提携先の拡大だ。ローソン・エイティエム・ネットワークスがウェブサイトで公開する提携金融機関が78社であるのに対し、セブン銀は「590社以上」と公表している。実際にこれほど開きがあるか確かでないが、その差が小さくないことは想像に難くない。

株主でもあるみずほ銀などメガバンクや有力地方銀行とは既に提携関係にあるが、今後は信用金庫・組合や農協・漁協などの中小金融機関へもすそ野を広げる必要がありそうだ。

共通ポイントカードや電子マネーとの連携拡大も有効だろう。キャッシュカードとの一体化などで預金口座の獲得、ひいては手数料拡大が期待できる。実際、ローソンは11月にプリペイドカード「おさいふPonta(ポンタ)」を導入、12月15日からはイオンの電子マネー「ワオン」を扱うことも発表している。ドコモとも提携し、dポイントも貯められるようになっている。これらの動きは同社の銀行参入可能性が高いことを伺い知る材料にもなる。

また来年4月から始まる電力小売り自由化で、コンビニがその窓口のひとつになればこれも新規口座獲得の大きなチャンスになる。人口の減少や過疎化が進むにつれ、生活インフラとしてのコンビニの存在感は高まる一方。金融サービスの優劣が目先の業績だけでなく、いずれコンビニの集客力の格差拡大につながる死活問題となる可能性も秘めている。(上杉光、シニア・アナリスト)