政府がゆうちょ銀の株式を全面放出していない

民間の金融機関が問題視しているのは、ゆうちょ銀行が上場したとはいえ完全民営化はなされていない点だ。現在においてもゆうちょ銀行はメガバンク最大である三菱UFJフィナンシャルグループの預金残高約155兆円を超える180兆円近い預金を保有している日本最大、世界でも有数の巨大銀行だ。

また全国の支店網、郵便局網も約2万4000カ所と圧倒的だ。上場したとはいえ、世間一般からはいまだ政府系金融機関とのイメージが根強く、株式も全面放出がなされたわけではなく政府出資が続く。そのため、預金上限が撤廃された場合、即時上限まで預金を行う顧客が出てくる事は想像に難くない。

そしてその資金は他銀行からの引出によってゆうちょ銀行へ入ってくる。特に地元密着を強みとしていた信用組合や信用金庫は、より地元密着度が高いゆうちょ銀行が攻勢に出ることは存亡の危機につながる。

今後普通銀行に業態変更した場合には、融資・貸出業務が始まる可能性がある。すでにゆうちょ銀行は地方銀行の住宅ローンを代理として展開しているが、自身で手掛けることになればメガバンク以上の資金力をもちながら信用金庫、信用組合以上に地域密着で貸出業務を行う事ができてしまう。

将来的には上限撤廃を目指しているが、上限を撤廃しゆうちょが民間金融機関として自由に展開可能となった際には、その支店網や資金力で国内の金融機関地図が大きく変化する事は間違いない。

預金保険制度における元本1000万円補償はどうなるのか

ただし悪い話ばかりでもない。預金保険制度、俗に「ペイオフ」と言われる金融機関は破たんした際の預金の補償、補てんだが、現在の元本1000万円という額はゆうちょ銀行の貯金限度額と関係がある。2002年以降においてペイオフで保護されえている金額は官民格差の是正、民業圧迫を防ぐために、ゆうちょ銀行の貯金限度額を根拠として来た。

現在のゆうちょ銀行は銀行として預金保険機構に加入しているため、厳密には1500万円まで預金上限を引き上げても現状はペイオフで保護される金額は1000万円、500万円は保護対象外となる。

しかし国民の多くはそうは受け取らず、ゆうちょ銀行は国が全額保証していると考えるであろう。そのため、今回ゆうちょ銀行の貯金限度額を1500万円に引き上げるのであれば、預金保険制度、ペイオフについても1500万円まで引き上げることは他の民間金融機関として絶対条件となるだろう。

ゆうちょ銀行の預金限度額引き上げは、預金者としては魅力的な話かもしれない。しかし民間金融機関としては極めて看過できない話となってくる。かつて国の下で制限されてきた巨大銀行が徐々に拘束を解かれてきている状況に、金融機関としては危機感を覚えている状況だ。まして現在は政府出資がありながら民間金融機関として動き出している、預金者から見ると最も魅力的な金融機関といえる。

預金上限や貸し出しの解禁がなされた際には利用者が殺到するだろう。金融庁は現在、メガ地方銀行といわれるリージョナルバンク構想による金融業界再編を掲げている。このゆうちょ銀行の預金限度額引き上げは、今後の日本における金融機関地図に大きな影響を与えることは間違いない。 (ZUU online 編集部)