中国,PM2.5
(写真=Thinkstock/Getty Images)

日中産学官交流機構・特別研究員の田中修氏は、11月30日から12月3日にかけて北京を訪問し、中国人エコノミストや現地日本企業関係者からヒアリングを行った。日本ではメディアが盛んに「中国経済悲観論」を喧伝しているが、実際のところはどうなのであろうか? そこで今回は、内外屈指の中国ウオッチャーである同氏による現地リポート「北京雑感」をお届けする。


北京は習近平主席が外遊するとPM2.5に覆われる?

11月30日から12月1日までは、北京はPM2.5に覆われ、全く視界不良となり、自動車は昼間でもライトをつけて走るような有様であった。北京の病院は、呼吸器を痛めた患者が殺到していたという。

なぜ、このように大気が悪化したかについて、北京の庶民は「習近平主席がフランスに行ったからさ」と囁いていたという。厳しいトップが外遊すると、たちまち環境対策の手が緩み、汚染がひどくなるというわけだ。

防砂林のせいだという声も聞く。北京市は黄砂被害を防ぐため、積極的に防砂林を植えた。その結果、以前ほど黄砂の被害は聞かれなくなったが、防砂林により風がさえぎられ空気が滞留するようになり、PM2.5の濃度が高まったのだという。「これなら、黄砂の方がまだよかった」というところだろう。

1日の夜からは大風が吹き、2日には北京青天がよみがえった。同じ北京とは到底思われない。あのPM2.5 はどこに行ったのか?一部は日本まで流れたに違いない。


日本企業本社と現地の認識にギャップ

現在、日本のメディアが中国経済悲観論を喧伝しているため、日本企業の本社サイドは対中投資に二の足を踏む傾向がある。

しかし、現地の声をきくと、それほど中国経済が悪化しているわけではない。重厚長大産業の調子は確かに悪いが、それだけが中国の産業ではない。どの産業・地域を見るかで、中国経済の印象が変わってしまうのである。一方で、「中国製造2025」が発表されると、いち早くビジネスチャンス到来とばかり、社長が北京に飛んできた大手企業もあるという。

一般に、中国経済に悲観的な企業は、トップが全く北京に来ていないという。他方で、中国経済の先行きに期待を持っている企業は、トップが頻繁に北京を訪れ、綿密な現地視察を行っている。そういう企業では現地と本社の認識ギャップはない。自分の目で確かめず、新聞記事を鵜呑みにしているようでは、正確な投資判断はできないであろう。


李克強指数ほどあてにならないものはない

よく、中国経済は①電力使用量、②鉄道貨物輸送量、③中期貸出の伸び、を見れば分かるという話をきく。2002-07年に李克強氏が遼寧省書記だったときにそう語ったとされ、これを組み合わせた「李克強指数」なるものも開発されている。

しかし、この李克強指数ほどあてにならないものはない。まず、最近は工業以外の第3次産業や民生用の電力使用も伸びている。夏が涼しいとクーラー使用が減って、電力使用量がマイナスになることもある。

また、最近は道路貨物輸送が伸び、トン数では鉄道の10培である。石炭・鉄鋼業の不振で、石炭・鉄鉱石の鉄道輸送はマイナスとなっているが、道路貨物輸送はプラスになっている。さらに、企業の資金調達手段は銀行借入以外にも拡大し、株式市場・債券市場やシャドーバンキングが発達している。10年前と今では、中国経済の構造が違うのである。


「独身の日」の北京をバイク便が走り回る

ある中国人エコノミストの解説では、社会全体の電力使用量のうち、工業部門は7割を占めている。工業部門は統計上41業種に分類されているが、この中の7業種(鉄鋼・セメント・金属製品・繊維等)が工業用電力使用量の約7割を占めている。

しかし、これら7業種の生み出す付加価値は、工業全付加価値の約4割でしかない。これらの電力多消費型産業が減速あるいはマイナス成長となり、電力需要が伸び悩み、石炭需要の減少につながり、ひいては鉄道貨物輸送量にも影響しているのである。また、最近銀行貸出の伸びは安定しており、経済との相関性が低くなっているとの指摘もあった。

ある外国シンクタンクの計算では、李克強指数に基づく1〜6月の中国の経済成長率は2〜3%であるという。しかし、それなら北京の街に失業者や物乞いがあふれているであろう。11月11日の「独身の日」には若者のネット爆買いがあり、北京の街はバイク宅急便が走り回っている。ちなみに1〜6月の遼寧省の成長率は2.6%である。李克強指数は、産業構造が旧態依然である遼寧省の指数なのである。

【筆者略歴】田中修(たなか・おさむ) 日中産学官交流機構 特別研究員
1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月〜9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。2014年4月から中国塾を主宰。学術博士(東京大学)。近著に「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)、「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)、ほか著書多数。

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