日銀が導入したマイナス金利付き量的質的金融緩和の評価が定まっていない。
金融機関は日銀当座預金の残高にマイナス金利が付されるため、より貸出や投資に積極的になり、景気刺激効果と円安効果があるというのが日銀の目論見である。
一方で、マイナス金利は日銀当座預金残高からの収入の減少や貸出利鞘の縮小を意味するため、金融機関の財務悪化が貸出や投資を消極的にしてしまう悪影響があるという指摘もある。
実際に、そのような懸念が金融機関の株価に下押し圧力をかけたことも事実だ。
前者であれば日銀の勝ち、後者であれば日銀の負けとなる。
注目は「日銀短観・中小企業金融機関貸出態度DI」
それを決するのは、企業が金融機関の貸出態度が緩和したとみるのか、引き締まってしまったとみるのかである。
その結果は、内需の動向を最も敏感に反映すると重要視している日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIに表れることになろう。
このDIは、金融機関の客観的な融資条件の変化ではなく、企業が主観的に貸出態度をどうみるのかを計る。
過去の金融緩和局面では、このDIはほとんど上昇してきた。金融緩和が行われたとニュースで流れると、事実はどうであれ、企業は金融機関がより積極的に貸出に応じると考えるアナウンスメント効果があると考えられる。
マイナス金利政策は初めての試みであるため、これまでと同様のアナウンスメント効果があるのかどうか注目である。同様のアナウンスメント効果は確認でき、DIが低下することはないと予想する。
景気・マーケットが持続的に好転をしていくための国内の必要条件は、総賃金が拡大し、内需拡大・デフレ脱却への動きの実感が生まれることである。
総賃金が拡大するためには、企業の予備的貯蓄(いざという時のための流動性の備え)がより前向きな活動に取り崩され、企業活動が活性化していかなければならない。
そのためには、中小企業を含め、企業の資金調達への不安感が払拭されなければならない。
雇用の過半を占め、雇用拡大を牽引するサービス業の中心でもある中小企業が事業の拡大に動き出すことができれば、失業率も改善していくことが確認できる。
このDIは、失業率に半年から1年きれいに先行する指標となっている。失業率が自然失業率とみられる3.5%を明確に下回るトレンドが続き、労働需給はかなりタイトになってきている。
しかし、この程度では、雇用の拡大と賃金の上昇はまだパートタイマー中心であり、総賃金の増加が総じて実感できるような状況ではない。
失業率が3%を十分に下回る水準に更に低下し、労働需給のかなりの引き締まりで、正社員を中心とする雇用の拡大と賃金の上昇が生まれることが、その実感につながると考えられる。
そして、その賃金インフレが、日銀の目標である2%の安定的な物価上昇の達成の必要条件と考えられる。
このDIが上昇するか低下するかによって、日銀のマイナス金利の成否が判断できるだけではなく、日銀の物価目標への動きが順調であるかどうかも判断できることになる。
4月1日に公表される次の日銀短観の結果が注目である。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト