銀行に預けておけば、元金と利息の支払は約束される。万が一銀行が経営破綻に陥ったとしても、預金保険機構によって預金者1人当たり1,000万円までの元本とその利息が保護される「ペイオフ」という制度がある。そのため、複数の銀行に預けることで、資産運用のすべてを円預金のみで行っている人は少なくない。
しかし本当にそれでよいのだろうか。リスク分散の観点からは、預け入れる銀行を分けるだけでなく複数の運用資産に分散させることを検討したほうがよいだろう。以下では、円預金のみで運用することのリスクを、過去の預金封鎖の事例を挙げつつ紹介していく。円預金を否定するわけではなく、偏った資産配分に対してのリスクをお伝えしていく。
「預金封鎖なんて今の時代にあるわけがない」それは多くの人が同意するところだ。やや極端な例を使っての解説になるが、「万が一」に備えて運用資産を分散することもリスク分散の観点からは重要な視点だ。それでは、さっそく以下でみていこう。
キプロス、ギリシャ国内の銀行が預金封鎖
2013年、深刻な財政危機に陥ったキプロスが、預金封鎖を余儀なくされた。預金封鎖とは、国家の権限により銀行預金などの金融資産の引き出しを制限する緊急措置だ。ギリシャでもキプロスの二の舞を危惧した国民が銀行に殺到し、ATMでの預金引き出しに厳しい制限が設けられた。この事実も、おそらく大半の日本人は、遠く海を隔てた対岸の火事くらいにしか思っていないのではないか。しかし、日本でも過去に預金封鎖が行われているのだ。実際どのような政策であったのだろうか。
日本で行われた預金封鎖と奪われた国民の財産
太平洋戦争の最中、日本政府は大量の国債を発行し国民に購入を推奨した。こうして戦費を調達していたわけだが、戦争の長期化に伴い国の借金は膨らみ続けていった。その結果、日本の債務残高は終戦直前に対GDP (国内総生産) 比で200%超にまで達していたとされている (財務省『戦後の我が国財政の変遷と今後の課題』より) 。全国民が2年間、飲まず食わずで働いても返しきれない借金を抱えてしまったことになる。しかも、終戦直後の日本では物資が著しく不足し、強烈なインフレが進行すると予想されていた。モノの値段が跳ね上がり、お金の価値がどんどん低下していくと思われていたのである。そこで、当時の政府はお金の流通量を強制的に減らしてインフレを抑制するために「預金封鎖」という切り札を用いたのだ。しかし、インフレ抑制という名目の裏で、真の目的は別のところにあった。
預金封鎖に合わせて、政府は通貨を「新円」に切り替え、所定の期間が経過すると「旧円」が使えなくなる (価値を失う) という奇策に打って出た。当然、国民は先を争って「旧円」を交換しようとしたが、預金封鎖によって「新円」の引き出しには制限が設けられていた。結局、期限までにすべてを「新円」に切り換えられなかった国民が続出し、払い戻されなかった分は実質的に国によって踏み倒される格好となった。そのうえ、政府は国民が有している預貯金や家屋や田畑、株式などという資産に対し、貧富の差を問わず25~90%の税率の「財産税」を課したのだ。
前述のように、政府は戦費調達のために国債を刷り続け、国民から資金を調達していた。そして、敗戦により償還を迎える国債の原資がなくなると、インフレ抑制の名目で、預金封鎖・「新円」の切り替え、更には財産税を課すことで、国民の財産を没収して帳尻を合わせようとしたわけだ。
資金分散は円や国内だけでなく、海外も
「まさか、今の時代にここまで血も涙もないことは…」と思いたいところだが、財政的に行き詰まった他国で預金封鎖が現実に行われているのは冒頭でも触れた通りである。さらに対GDPで見た場合、今日における日本の財政赤字 (国債発行残高) はギリシャよりも深刻な規模とも言われている。すでにその総額は1,000兆円を突破、対GDPで233.8%と終戦直前の水準を上回っているのだ (財務省『債務残高の国際比較 (対GDP比) 』より) 。
もちろん、経済構造や対外純資産額も異なる国と比較をすることや、対GDPにおける財政赤字の水準を単純な数字だけで比較するのは適切ではないだろう。しかし、財政赤字が膨らんでいるのは事実である。すでに投資経験のある方なら「テールリスク」というコトバを一度は聞いたことがあるかもしれない。これは、まれにしか起こらないはずの想定外の暴騰・暴落が実際に発生するリスクのことをいうが、日本の財政破綻もこの類のリスクだろう。だからこそ、起こった時に影響は想定できない大きさになるはずだ。お伝えしたいのは、そういった時のためのリスク分散ができているかということだ。
重要なのは、そういった最悪のリスクも頭の隅にとどめておいたうえで、円預金や国内資産だけに資金を集中させない資産運用を心掛けることだ。円預金のみならず、外貨預金や投資信託、不動産、金、海外資産などにも分散投資を行っておくことが一つの手段となるだろう。
(提供: 大和ネクスト銀行 )
【関連記事 大和ネクスト銀行】
・
投資の一歩はここから ! 老後の資産形成に考えたい積立投資の仕組みとメリットを公開
・
貯蓄上手な人の3つの目的別口座のススメ
・
ジュニアNISA口座のメリットを一番受けられる賢い使い方とは ?
・
「楽しい老後」のために自分で考えなければならない資産形成のポイント
・
メガバンクの4倍以上の金利を得る方法 ? ネット銀行 × 証券口座の連携のすすめ