投資を通じて社会や環境にポジティブなインパクトを与えることを目的とする「インパクト投資」が話題だ。内閣府や金融庁、環境省など複数の政府系機関の公式サイトや資料で、このインパクト投資について言及されている。また2025年1月末、厚生労働省は私たちの年金を運用するGPIF (年金積立金管理運用独立行政法人) にもインパクト投資を取り込む中期計画案を公表した。

ここまでインパクト投資が注目されるのはなぜなのだろうか。本記事では、インパクト投資そのものの解説や周囲の期待度、似た性質を持つESG投資との違いなどについて紹介する。

「インパクト投資」とは ?

GPIFも注目する「インパクト投資」とは ? その可能性を探る
(画像=mapo / stock.adobe.com)

「インパクト投資」とは、社会や環境、経済にポジティブなインパクトを与える投資のことで、「インパクトファイナンス」とも呼ばれる。近年の金融業界では、似たような考え方として「ESG投資 (投資対象の価値を測る基準に「環境・社会・ガバナンス」の視点を組み込んだ投資) 」という語も取り沙汰されているが、内閣府が公表している資料におけるインパクト投資の定義は次のとおりだ。

企業、組織、ファンドへの投資であり、金銭的なリターンをもたらすとともに、社会的及び環境的なインパクトを生み出すもの
出典:内閣府

同資料では、インパクト投資の主な特徴として以下の4つが挙げられている。

  • 意図:投資を通じて社会や環境にポジティブなインパクトを与えるという投資家の意図を重視
  • 金銭的なリターン:金銭的な収益、少なくとも元本の回収が期待されること
  • 資産の区分の幅:期待される収益と投資の対象になる資産が多様であること
  • インパクト評価:社会的および環境的な成果や進捗を測定し、それを報告すること

これまで投資は「リスク」と「リターン」という2つの軸によって投資する価値の有無が判断されてきたが、この2軸のほかに「社会や環境にインパクトを与える」という基準を加えた考え方だ。

2024年の関連残高は約17兆円、約3年で4.4倍超に拡大

インパクト投資は、2000年代後半から欧米を中心に広がりはじめたとされる。日本では、「金融を通じて環境・社会の課題を解決する」という考え方のもと、2021年11月に銀行や保険会社、運用機関といった金融機関が署名した「インパクト志向金融宣言」が出されるなど注目度が上昇。岸田文雄前首相が施政方針演説のなかでインパクト投資に言及して以来、内閣府や金融庁、環境省など複数の省庁で取り上げられるようになった。

一般財団法人社会変革推進財団が公表している「インパクト志向金融宣言プログレスレポート2024」によると、「インパクト志向金融宣言」の署名機関は80機関 (2024年9月1日時点) に上る。また、インパクト投資の残高の合計は2022年時点で約3兆8,500億円、2023年時点で約10兆7,240億円、2024年時点では約17兆407億円に増加したという。

こうした流れを受け、私たち日本国民の年金を運用するGPIFもインパクト投資を実施する方針だ。2025年1月、GPIFを管轄する厚生労働省は、同年4月からの投資計画のなかにインパクト投資を組み入れることを発表した。GPIFは「年金加入者の利益以外を追求してはいけない」という制約が課されており、社会や環境にインパクトを与えることを目的とした投資はできないことから、これまでは投資計画にインパクト投資を盛り込んでいなかった。しかし、「インパクト投資は結果的に中長期的な投資収益の向上につながる」と判断したようである。

具体的な投資先は ?

すでにさまざまな金融機関がインパクト投資をテーマとした投資信託などを設定し、販売している。では、実際にどのような企業や組織、プロジェクトが投資対象になっているのだろうか。環境省の資料では、海外のファンドなどを通じて実施されたインパクト投資の事例として、以下のような企業が紹介されている。

  • オーストラリアの再生可能エネルギー開発企業
  • 南米ペルーの「途上国の飢餓の解決」を掲げた農産物の生産・販売企業
  • フランスのエコカーのリース会社 など

このようにインパクト投資の対象は、そのテーマに沿った企業やプロジェクトが中心となっている。運用会社は、これらの企業やプロジェクトを投資先として選定し、「インパクトファンド」などを通じて投資家に販売する。投資家としては、今後インパクト投資に関連する企業やファンドが人気テーマになる可能性があることを押さえておきたい。

「インパクト投資」と「ESG投資」の違い

ここまで、インパクト投資の特徴や投資対象を紹介してきた。これを見ると、昨今よく耳にする「ESG投資 (環境・社会・ガバナンスに配慮した企業などへの投資) 」との違いがわからないという人もいるのではないだろうか。それもそのはずで、インパクト投資は広義ではESG投資の範疇 (はんちゅう) に入るため共通点が多い。決定的な違いは、インパクト投資が「社会や環境に良いインパクトを与える意図がある投資」である点だ。

ESG投資では、ESGへの活動を通して「長期的に企業価値や投資リターンの向上が見込める企業への投資」が主眼となっているが、「社会や環境に良いインパクトを与える意図」は必ずしも求められていない。また、ESG投資ではインパクト投資で重視される「成果や進捗の測定と報告 (可視化) 」も必要とされない。その点で、成果や進捗が可視化されるインパクト投資は、投資家にとって魅力的といえる。

今後も注目したいインパクト投資

インパクト投資は、GPIFが運用に組み入れようとしており、私たちの年金にも深く関係している。業界や政府の取り組みを通して、インパクト投資は今後も普及していくことが予想されるため、知っておいて損はないはずだ。金融や投資業界の潮流の一つとして、ぜひ頭に入れておきたい用語である。

(提供:大和ネクスト銀行


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