地方創生枠奨学金
(写真=PIXTA)

地元進学、地元就職を後押しする新制度

若者の都市部への流出によって地方自治体の人口が減少し、地方の衰退がますます議論されるようになりました。さらに少子化も進んでいることで、全国の大学が学生の確保に苦慮しています。特に地方の私立大学のなかには、経営の危機に立たされているところも少なくありません。

東京への一極集中を是正し、さらなる地方の衰退を止めるため、地方の大学への進学、そして卒業後は地元での就職を促すという2段階でのアプローチが方策の一つとして提案されています。2015年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015改訂版)」でも、2020年までに自道府県大学進学者の割合を平均で36%まで高める(2015年度道府県平均32.3%)、そして、新規学卒者の県内就職の割合を平均で80%まで高める(2014年度道府県平均66.5%)という重要業績評価指標が掲げられています。

地方に残る学生を増やすことを目的として、日本学生支援機構の無利子奨学金事業において新たな奨学金が創設されることとなりました。それが、「地方創生枠奨学金」です。これは、地方の大学や短大、大学院、高等専門学校、専修学校などに進学する学生や、地元産業の振興や地域活性化につながる特定分野を大学などで学ぼうという学生が対象となる奨学金制度です。卒業後に地元企業などに就職した場合は、返還額の全てまたは一部が実質的に免除されるのが特徴で、2016年度から創設されることになっています。この制度について、詳しく見ていきましょう。

「地方創生枠奨学金」の実際

地方創生枠奨学金の支給対象者は、日本学生支援機構の第一種奨学金(無利子)の貸与基準を満たす学生を優先的に採用し、都道府県ごとに毎年度の上限が100人と決められています。活用するためには、例えば国公立大学へ自宅通学する場合、高校2~3年の成績が5段階評価で平均3.5以上、申し込み前年度の家計収入が805万円以下などの基準をクリアする必要があります。これは4人世帯で自宅通学である場合の目安ですが、世帯人数、給与所得者か事業所得者か、進学先の区分などによって条件は異なります。

おおまかな手続きの流れは、地方創生枠奨学金を希望する学生が大学などの進学先に申請し、3月末までに地方創生枠の推薦者が選考・決定されます。選考に通り、地方創生枠推薦者決定通知を受け取ったら、決定通知を添付して、4月上旬以降に日本学生支援機構の無利子奨学金を申し込みます。そこで貸与基準をクリアしていれば、優先的に無利子奨学金貸与を受けられるということになります。卒業後に返還支援を受けるにあたっては、日本学生支援機構に発行してもらった返還残額証明書を添えて、基金設置団体に返還支援請求を行う必要があります。

ちなみに2015年度現在の第一種奨学金の貸与金額は、一律3万円か、国公立の自宅通学生で4万5000円、自宅外通学生で5万1000円、私立の自宅通学生で5万4000円、自宅外通学生で6万4000円を選択できるようになっています。

地方創生枠奨学金がこれまでの奨学金と異なるのは、各地方自治体に置かれる「基金設置団体」が定める要件により、返還支援がある点です。例えば、卒業後に地元企業に就職するなどの要件を満たした場合は、奨学金返還の全額もしくは一部を肩代わりしてもらえるのです。これにより、基金が全額負担してくれる場合は奨学金を実質的に返還する必要がなく、給付型奨学金を受けるのと同じことになります。また、この奨学金は、新規入学者だけでなく2年生以上の在学者でも利用できます。

地方創生枠奨学金を利用するにあたっての留意点

返還支援を受けるためには、各自治体が定める就職後の返還支援要件を守る必要があるということです。例えば徳島県では、県内で成長が期待される分野を学んだうえで、県内企業に正規職員として3年以上就業すると、奨学金返還総額の1/2(上限100万円)もしくは1/3(同70万円)を、就業4年目から5年間にわたり分割で肩代わりすることを発表しています。つまり、卒業後に県外企業へ就職したり、県内で就職しても3年未満で辞めたりすると、支援は受けられません。これらの要件は、各地方自治体が設置する「基金設置団体」によって異なるため、要注意です。

経済的に余裕がない、奨学金の返済に不安がある、地元で学び就職したい、ある地域の産業に興味を抱いているといった学生にとっては朗報といえる新制度が、間もなく始まろうとしています。(提供: nezas

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