中国,学歴
(写真=PIXTA)

中国では学歴のことを「文化程度」と言う。学問はそのまま文化ということだろうか。また戸籍簿にもこの記入欄がある。それならとても重視しているのでは、と思われるかも知れないが、実際にはそうは見えない。中国人にとって学歴とはどんな意味を持つのだろう。詐称はあるのか、その辺りについて分析をしてみたい。

ちなみに小学校は「小学」、中学校は「初級中学」、高校は「高級中学」、大学と高専(高等職業学校)のことを「高校」と呼ぶ。日本人には紛らわしい。高級中学と高校の入試は6月に行われ、7~8月は夏休み、9月から新学年が始まる。そのため毎年6月が騒ぎになるのは風物詩だ。入試の日には普段は人を人とも思わない中国人が、他人(受験生と関係者)に大きな気使いを見せる。日常を思えばほとんど滑稽に思えるほどだ。街中がざわつく様子を見ていると、日本の比ではない。

就職戦線の状況

学歴の先にある就職状況を先に見てみよう。手元に山東省の資料がある。同省は広東省に次ぐ中国第2位の人口の多い省で、経済発展では北京、上海、広東省に次ぐ第2グループだろう。

ここ5年間の就職率が出ている。2011年88.7%、12年92.8% 13年90.2% 14年91.5%、15年92.4%と順調である。15年の“高校”卒業生は51万400人で、そのうち3万8500人は教員養成系、残る47万1900人のうち43万6100人が就職した。大学院生4.18%、学部生44.41%、高専生51.48%の割合だが、就職率の差はほとんどない。特徴的なのは男女比だ。男21万6000人、女22万人とわずかに女の方が多い。教員養成系では就職者3万3550人で就職率は87.2%、男9188人、女2万9307人で女が3倍以上だ。つまり高等教育を受けている人は、すでに女性の方が多いのである。

就職先は企業64.62%、事業単位15.70%、公的機関7.94%、その他11.74%だった。北京・天津、上海など直轄市で職を得た者は11,82%だった。満足度調査では、満足52.57%、まあ満足35.88%、ふつう10.2%、不満足は1.35%に過ぎない。これを信ずる限り、就職戦線は極めて順調というしかない。

大学ランキング

英国クアクアレリ・シモンズのアジア大学ランキングによると、3位に清華大学、9位北京大学、11位復旦大学、16位上海交通大学となっている。もう一つの英、タイムズ・ハイアー・エデユケーションのそれでは、4位北京大学、5位清華大学、24位復旦大学、26位中国科学技術大学となる。第三者評価の高いのはこの辺りである。

中国側には、『2016中国大学ランキング700強』という資料がある。難易度順に715校が掲載されている。

それによると、1位北京大学、2位清華大学、3位復旦大学、4位武漢大学、5位浙江大学、6位中国人民大学、7位上海交通大学、8位南京大学、9位国防科学技術大学、10位中山大学となる。とにかく、北京大学、清華大学、復旦大学、が中国の3枚看板に違いない。反対に600位以降には師範大学(教員養成系)がやたら目に付いた。中国の教育は大丈夫だろうか。

上述の山東省では、21位の山東大学、53位中国海洋大学、60位中国石油大学、とトップ100入りは3つだけで、人口大省の割にパッとしない。

就活の実態

地元の神童は3枚看板大学を目指し、金持ちの子弟はアメリカ留学を目指す。それ以外の大勢は、まず省内の中核大学を、ということだろう。寄宿するにしても、食べ物や生活習慣は故郷に近く、なじみやすい。地元就職を目指すにも有利である。特に女性は省内を選ぶだろう。山東省の例だと、昨年の就職者47万1900人のうち、省内出身者は36万4300人、77.2%を占めている。

大学入試はお祭りのように騒々しいが、生死を賭けた大勝負ではない。学歴に関係なく皆したたかに生きている。

ある青年のケースを紹介しよう。彼は高級中学卒業後、大学受験に失敗し、高等職業学校へ進んだ。同校卒業後はホテルのレストランでウエイターをしながら待っていた。「何を?」親族がいい職を紹介してくれるのを--である。

彼は半年以上待っていたはずだが、最後に首尾よく台湾系大手食品会社の営業職を手に入れた。彼の就職をまとめたのは同業界の中堅に位置する叔父であった。これが一般レベルに多い“地道な”就活の姿だろう。システマチックな日本の就活とは対極である。

詐称は了解済みの事項?

学歴詐称は、就活レベルでは途絶えることはなさそうだ。本当にその大学を卒業しているかは、今やネットにより簡単にチェックできる。ところが実際には企業側は面倒なのでやっていないということも周知の事実となった。3枚看板大学の卒業履歴ならさすがに確認するだろう。

しかし一般レベルの就活には、既に述べたように別の原理のほうがより強く働いている。

では日本のように、「政治家やタレントが学歴詐称で袋叩きにされることは?」これはなさそうである。

その理由は、中国人はまず他人に関心がない。それに自分を大きく立派に見せて、交渉を有利に進めようとするのは中国人の本能だ。主張に誇張やプリズムがあるのはお互い了解事項の内である。

素直、正直、潔さ--は美徳でも何でもない。何より面の皮の厚さが違い、袋叩きにしたところで効果は薄い。中国人をへこませるのは至難の技なのである。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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