HECM市場及びHMBS証券化市場の現状と今後

◆HECM及びHMBS市場の規模

HUD/FHA及びジニーメイによると、HECM導入以来、HECM融資契約及びHECM融資債権に基づき発行されたMBS(以下、HMBSという)の実績は次の通りである。HMBSの多くがHREMIC(*12)としてリスクを分割したマルチクラスの債券にストラクチャされているのは、通常のMBSの特性とは異なるリバースモーゲージの証券化の特徴と考えられる。

米国のHECM・HMBS市場規模を単純にイメージするための参考として、日本の住宅融資市場規模と比べてみよう(*13)。住宅金融支援機構によると、2014年度における住宅融資の新規貸出額は約19.2兆円、融資残高は184.3兆円である。米国のHECM融資市場における新規貸出額(新規保険引受額)は日本住宅融資の場合の約13分の1、融資残高は約11分の1ということになる。

日本の住宅融資市場における新規貸出額のうち、住宅金融支援機構が行ったFLAT35等の証券化のための買取り支援額(FLATによる証券化額)は1.7兆円弱なので、米国ジニーメイが保証しているHMBSの発行額は現状でその2分の1位というイメージになる。

【HECMの実績】1989年10月1日~2015年9月30日
総保険契約件数:948,736件
累積保険引受額:2,202億ドル(24兆2,220億円、@110円/$)
保険契約完了分:299,968件(643億ドル≒7兆730億円)
保険契約継続中:614,868件(1,486億ドル≒16兆3,460億円)
HUD在庫投資:34,060件(73億ドル≒8,030億円)
新規保険引受額:2014年度135億ドル、2015年度131億ドル(1.5兆円弱)

【HMBS発行状況】2015年8月まで
発行残高:522億ドル、327,728融資契約
HMBS発行額:2014年度71億ドル、2015年度80億ドル、毎月5~8億ドル
内HREMIC発行額:2014年度51億ドル(HMBSの約72%)
2015年度70億ドル(HMBSの約86%)

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(*12)REMICとは内国歳入法に規定されたRealEstateMortgageInvestmentConduitのことで、多数のモーゲージプールからの元利払いを、異なる元本残高や金利条件、償還期間などに基づきリスクや特性の異なるクラスに分割する投資ビークルもしくは信託契約であり、その商品名の総称である。HECMのREMICはHREMICと表記され、償還期間に替わり、借り主の年齢などがクラス分けの基準となる。REITなどと同様に一定条件下において、ビークル段階での法人課税は回避されている。
(*13)住宅金融支援機構のデータに日本のリバースモーゲージが含まれるかどうかについては不明である。
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◆HMBS投資のメリット

ジニーメイによると、HMBSやHREMICを購入しているのは、大手商業銀行から小規模な地域銀行、マネーマネジャー、ミューチュアルファンド、ヘッジファンド、生命保険会社や年金基金などである。

投資家にとってのHMBSの魅力は、FHA保険やジニーメイ保証によって、通常のMBSのプレミアムが105bps程度であるのに対し、HMBSは109~112bpsのプレミアム(2015年10月末時点)が提供されている点とのことである。

固定金利のHMBSは、融資残高の成長により5%以上のリターンが期待でき、部分返済はあるものの、通常の住宅融資では早めに頻繁に生じる借り換え行動も比較的遅く生じるため、期限前償還リスクも少ないという。

なお、投資家の需要が徐々にしか出てこないのは、市場自体が成長途上にあり様子見があることに加え、まだ機関投資家の認知度が低いことためという。

◆HMBSの償還事由

HMBSのパフォーマンスは不定期な償還時期と償還額に左右されるが、元利の償還事由をジニーメイ資料からみると(図8)、2012年度と2013年度は「借り主による全額返済(Voluntary Full Payment)」による償還額が主であったのに対し、2014年度と2015年度は元利が融資限度額(MCA)の98%に達したことによる「融資限度超過(Mandatory Purchase Events)」を事由とする償還額が上回っている。全体として償還額も急増している。

これは以前に住宅価格が高い水準にあった時点でHECM契約を行い、金融危機によって住宅価格が一旦下落し、その後、直ちに回復せずに、十分な鑑定評価額(=融資限度額MCA)が得られなかったためにも関わらず、金利が膨らんだことによって発生したものである。

「借り主による全額返済」も「融資限度超過」に続いて多い。

今後もしばらく「融資限度超過」は継続するものと見込まれているようだが、投資家からすれば、ある程度、当該時期のHMBSプール債券の償還時期が読みやすくなる部分もある。しかし、MMIファンドとしては大きな影響を受けることとなる。

リバースモーゲージの目的からみた場合の償還事由「借り手死亡」を含む「借り手死亡・差し押さえ等」は、「借り主による部分返済」とともに、過去4年度にわたって市場規模とともに着実に増加している。

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こうした点から、HECM制度の魅力を高めると同時にMMIファンドの健全性を維持し、HMBSのパフォーマンスを安定させるためには、寿命や利子率、住宅価格以外の不確定要素、つまり政策的観点からの制度緩和等は最小限とし、金融危機のような事態に備え、リバースモーゲージ本来のパフォーマンスを実現することが重要と考えられる。

◆公的なHECMか民間のリバースモーゲージか

準公共機関として住宅融資債権の証券化を行ってきたファニーメイやフレデイマックなどのGSEを、HUDの関連機能も含めて、新たな連邦住宅金融機関(Federal Housing Finance Agency)に再構築しようとする議会の動きも続いている。保証行為ではあるもののジニーメイが全面的にHMBSやHREMIC市場に関与しているのも、その流れの一環と考えられる。

業界団体であるNRMLAへのヒアリングによると、現在の融資限度額(MCA)が市場における住宅価格の上昇という実態からすると、625,500ドルでは低すぎる点を除けば、HECMに制度的な不満はなく、かつ今後もFHA融資保険とジニーメイの関与がなければ、貸付機関や消費者にとって魅力的な商品づくりを民間で行うのは難しいとの見解である。

具体例をあげると、カナダや豪州では、FHAのような融資保険制度がないため、融資掛け値は25%程度しか得られず、魅力ある商品づくりができていないとのことである。このように、公共のプレゼンスに対し業界からの不満はないことから、引き続き、HUDは議会と調整しながら、HECM制度とHMBS市場の育成を続けるものと判断される。

◆民間貸付機関の動きと今後のHECM需要見通し

2010年や11年にHECMの主たる貸付機関であったウェルズ・ファーゴやバンク・オブ・アメリカ、メットライフなどの大手金融機関は市場から退出し、2014年や15年になると、アメリカン・アドバイザーやアーバン・ファイナンシャル、RMS/セキュリティ・ワン・レンディング、リバティ・ホーム・エクイティなどの中小貸付機関が市場を占有することになった。

しかし、足下では大手が融資限度を高めた商品をベースに市場に復帰する動きがでており、今後はさらにリバースモーゲージ市場は拡大するものと見込まれている。

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