詐欺,中国,振り込め詐欺
(写真=PIXTA)

日本でいう「詐欺」とは、正しい商取引に対して人をだます負の行為としてある。ところが中国の場合、この正負の境界がはっきりしない。何事も相対的に決まる。また役人自体が審判ではなく、有力なプレーヤーである。誰が詐欺師で誰がそうでないのか。公私の区別もあいまいな中、何を信用してよいかわからない。その結果、中国の詐欺市場は大きな拡がりを見せ、誰もが疑心暗鬼に陥っている。

役人が詐欺行為をはたらく?

中国の役所を訪れると“為了人民服務!”というスローガンを見かける。「人民のために奉仕しよう」といった意味だが、人民の方では“為了人民幣服務!”「人民元のために奉仕しよう」の間違いだと揶揄している。中国では役所の「稼ぐ力」は私企業の上を行く。人民側はそれをよく承知している。

“乱収費”という言葉がある。役所がいろいろな規定や手続きをひねり出し、企業や個人から金をむしり取ることを指す。

15年ほど前には、こうした網があちこちに張りめぐらされていた。例えば当時の税務局員は、各企業の財務担当者たちを自分の部下のように扱っていた。いつでも招集できたのである。合宿勉強会まであった。勉強とは名ばかりで、企業に金を出させ、温泉地でどんちゃん騒ぎをするのが真の目的だった。ほとんど詐欺と変わらない。

ここまで露骨な行為はなくなったが、類似のケースなら今でもある。中国人はこの種の創造力に恵まれている。

詐欺の手口、役人なりすましが定番

こうした風土の中、中国における通信機器の進歩は驚異的スピードだった。固定電話さえあまり普及していなかったレベルから、一気にスマホまで突き抜けた。詐欺犯罪のバリエーションも、これにシンクロして爆発的に拡がった。日本のように、“オレオレ詐欺”の扱いが大きい、という現象はない。ターゲットは幅広く、“電話詐騙”という訳語に一括されている。ネット辞書「百度百家」ではこれを3類型とし、20の手口を紹介している。

3類型とは、(1)電話類−電話による詐欺、(2)短信類−ショートメール詐欺、(3)吸話費類−−通話費な等を偽口座に誘い込む詐欺。

次に中国流ダマしのテクニックを見ていこう。

・「公証処の公証員」を名乗り「あなたは抽選で当選しました」とだまし、個人情報を得る。
・「銀行員」を名乗り、カードの消費額の確認などといって口座ナンバーを得る
・「税務局員」を名乗り、自動車税、不動産税の還付について相談があるとして、個人情報を得る。
・「社会保障局員」を名乗り、社会保険の還付があると称して、個人情報を引き出す。
・「財政局員」を名乗り、新生児手帳発行のためのアンケートと称し、個人情報を得る

・「あなたの子供が事故を起こした、緊急に賠償金振込みが必要」との電話がくる。
・「あなたの家族が急病、現金が必要」と振込みを依頼される。
・「あなたの友人から歌のプレゼントです。感謝のコメントはこちらに電話を」などの手段で個人情報を引き出す。
・「外地に出張中だが、携帯電話代がなくなった。至急このカードに入金を」と依頼される。
・中国電信顧客ホットラインと名乗り、徴収しすぎた料金の返還と称して口座ナンバーを得る。

・お得なプリペイドカードがある。販売代理店にならないか、という勧誘の電話を繰り返す。
・ランダムに電話をかけ、コールバックさせ、個人情報を得る。
・間違い電話をかけたところ、相手が友人の友人と名乗り、個人情報を盗られる。
・上級幹部の部下を名乗り、最高幹部の個人電話番号を得ようとする。
・購入した商品のアンケートと称し、不満な場合はこちらに電話を、と誘導する。
・送った荷物が未引取りになっていると称し、コールバックをさせ、個人情報を得る。

・「裁判所員」を名乗り、未処理の書類があって強制執行もあると脅し、個人情報を取る。
・「公安局員」と名乗り、重大事件への協力を求められ、身分証ナンバーなどを聞き出す。
・「医保局員」を名乗り、新生児情報の聞き取りと称し、個人情報を得る。
・上司を名乗り、30秒後にここへ電話しろ、と誘導し個人情報を得る。

このように役人を名乗るのが定番だ。中には成りすましではなく、本物もいることだろう。中国で悪のテーマを語るとき、役人は欠かせない。とにかく存在感が大きい。

最新統計にみる詐欺師の活躍

早くも2016年第一四半期の電話詐騙統計が出た。それによるとこの3カ月に、詐欺とおぼしきショートメールを受け取ったのは6億4000万人、メール件数は10億1000万通。被害総額35億7000万元。四半期決算の売上が700億円近いのだ。実際、周辺の中国人に聞いたところ、週に2〜3通、訳のわからない怪しいメールを必ず受け取るという。被害の内訳は、電話詐欺18億8000万元、インターネット9億7000万元、ショートメール7億2000万元だった。

スマホの必須メッセンジャーアプリ「微信」を提供するテンセント社では、4月1日に「反詐騙聨合実験室」を立ち上げた。同社はすでに犯罪研究センターを持っているが、さらに防犯体制の強化に乗り出した。

中国でだまされずに生きていくのは、大変な難事である。うっかり間違い電話すらできないのだ。ただ被害者は老人に集中していない。中国の老人はネットツールやATMをほとんど扱えないため、被害を免れているのかも知れない。また個人金融資産も日本のように老年層に集っているわけでもない。老人の被害が少ないのだけが救いだとすれば、やはりここは救いようのない詐欺師天国である。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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