FOMC,見通し,イエレン議長
(写真=Getty Images)

ダウ平均株価は4月18日、1万8000ドルの節目を突破して年初来高値を更新し、昨年7月以来、約9カ月ぶりにこの大台を回復した。株式市場にもようやく春が訪れ、安心感も広がりつつあるが、その一方で、ウォール街の市場関係者の間では、株価が上昇しことで「イエレンコール」への懸念もささやかれ始めている。

イエレンコールからイエレンプットへ

金融市場が動揺する場面でFRB(米連邦準備理事会)が救いの手を差しのべてくれることを株価の下落時に損失を限定することができるプットオプションになぞって「グリーンスパンプット」「バーナンキプット」などと呼んでいる。こうした用語の定義は必ずしも明確ではないが、株価の下落時にFRBが助け舟を出してくれるのではないか、との期待が膨らむことは確かであろう。

イエレン議長がFRB議長に就任したのは2014年の2月だが、前年の2013年12月から既にQE3(量的緩和)の縮小が開始されており、就任後の関心はもっぱらいつから利上げが始まるのかに集まっていた。株価も2014年10月にQE3が終了するとその後は伸び悩みとなり、景気が堅調で株価が上昇すると「利上げ見通しが強まって」上値を抑えたことから、前任者らとは逆という意味で「イエレンコール」と揶揄されている。

FRBは昨年12月にようやく利上げに踏み切ったものの、年初からの株価急落で、「利上げをしたから株価が下がった」との叱責を逃れるために、急遽イエレンプットを発動した。そのかいあって株価は順調に回復し、年初来でのプラス圏へと浮上すると、足もとでは過去最高値も視野に入る水準まで上値の伸ばしている。

当然、株式市場が落ち着けば、市場はまた次の利上げを意識せざるを得なくなるわけで、今回ダウ平均が1万8000ドルを回復したこと自体は朗報であるが、逆に利上げを正当化する材料として警戒感を強める必要もあるということだ。

利上げ後に国内から海外に目を転じ、株価を支援

もちろん、FRBは昨年12月の利上げ判断は正しかったとのスタンスを崩しておらず、米経済は堅調との見方を維持している。だが、FRBの誤算は正直に責務をまっとうしたことにあった可能性がある。FRBの責務とは雇用の最大化と物価の安定を指すが、昨年12月までの1年間で米雇用者数は月平均で23万人増加し、失業率も5.0%まで低下、基調的な物価の動きを示す12月のコアCPI(消費者物価指数)は前年同月比で2.1%上昇と目標となる2.0%を超えていた。こうした数字だけをみれば利上げを正当化できるどころか遅すぎるくらいであろう。しかし、FRBの目が国内に向いている間に海外では異変が起きていた。ドル高である。

比較的堅調な米景気を背景にFRBが利上げの準備を整えている間、米利上げを織り込む形でドル高が進行したが、ドル高が新興国からの資金流出を招き、国際商品価格を押し下げた。そこに中国の景気減速や原油の供給過剰が重なったことで、人民元の切り下げ観測や原油相場の急落が市場を混乱させた。

昨年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)声明文でも「世界経済と金融市場の動向を注視」との文言があるが、本当に注視していたがどうかは疑わしく、ドル高を警戒していたのであれば利上げの見送りも選択肢としてありえたはずだった。それが1月のFOMCでは世界的な株価の急落を受けて「世界経済の動向を注視する」ことを明確にし、FRBの関心は文字通り海外へと転じる。2月のG20では「競争的な切り下げを回避する」とし、通貨安を目的とした金融緩和に釘指した後、3月のFOMCでは利上げペースの鈍化を示唆し、ドル高の流れを止めて、株価を支援した。

イエレンコール再起動の環境は整いつつある

ドル高が是正され、株価も回復した現在、イエレンプットがいつ満期を迎えるのかに関心が向かうのは自然な流れであろう。そこで気になるにはFRBが居心地のよいと感じるドルや株価の水準はどこかということだ。

まず、株価と成長率の時系列データをみると、名目GDP(国内総生産)の成長率は過去10年の平均値が年率3.2%、過去20年が4.4%となり、S&P500株価指数(四半期平均の前年同期比の平均値)の上昇率は過去10年で7.1%、過去20年では8.5%となる。平均すると、株価は名目成長率に対して約4%のリスクプレミアムがあった計算となる。2016年の名目成長率を過去10年のトレンドである3.2%と仮定すると、株価の期待値は年率で7.2%上昇となる。したがって、S&P500の昨年10〜12月期の平均値が2052だったことを踏まえると、4〜6月期の平均値は3.6%上昇の2127が期待値となる。S&P500は4月19日現在で2100となっており、あと1.3%の上昇でこの期待値に達する。

一方、ドルの対ユーロ相場は4月15日現在で1ユーロ=1.1295ドルとなり、1月5日の1.0743ドルと比べ、5.1%のユーロ高ドル安となっている。ドルインデックスをみても、1月20日の高値から4月15日現在は5.2%下落しており、ドルは1月の高値をピークに4月までに約5%下落している。ドルは昨年10月とほぼ同じ水準にあり、約半年ぶりの安値圏にあるが、2012年以降の平均値と比べると、対ユーロでは9.8%、ドルインデックスでは12.1%ほどドルが割高となっており、ここ数年の水準との比較ではまだドル高是正の余地はありそうだ。とはいえ、実質実効レートをみると、3月は97.8となり、1973年以降の平均値である95.7を2.2%上回っているに過ぎない。かなり長期的な視野にたった場合には、ドルは割高とも言い切れない水準にあるともいえる。

かなり大雑把な計算ではあるが、FRBが再び利上げに動くための条件として、ドルと株価の水準を考えた場合、株価の回復は既に条件をクリアしており、ドル高の修正もおおむね満足のいくところに近づいているといえそうだ。

来週にはFOMCを控えているが、ここまで利上げを見送ってきた経緯、すなわちドル高や株安への配慮を踏まえると、FRBが現在のドルと株価の水準をどう捉えているのかが注目されよう。現在の水準では満足できず、引き続き海外の動向を注視するというのであれば、イエレンプットが維持されて、ドル安・株高が継続する公算が大きい。一方、当面の目標はクリアしたとの判断から、追加利上げをほのめかすことでイエレンコールの再起動となれば、ドル安とともに株価の上昇も止まる可能性がある。(在NYジャーナリスト スーザン・グリーン)

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