海外投資家の日本株離れを防ぐために

たとえ利益が出ていても、ROEの低下は投資家にネガティブに映る可能性がある。特に、ROEを重視する傾向があるといわれる海外投資家の日本株離れが加速すれば、需給面でも株価には大きな下落圧力がかかる。

不要不急の内部留保を有効活用するために自社株買いでROEを改善させることは重要かつ有効な手段だが、図3で試算したように数10兆円にのぼる大規模な自社株買いは現実的ではなかろう。また、図3は増益を維持することの重要さを示唆している。アベノミクス初期のような2ケタ増益でなくとも、5%程度の増益でもROEが早期に8%を回復できる可能性が十分にある。

足元の為替レートが続いたら日本企業全体ベースで16年度に増益を確保するのは難しいかもしれない。それでも投資家の期待を繋ぎとめることはできよう。そのためには設備・人材・新規ビジネスなどへの投資を加速させることが欠かせない。

こうした投資はすぐに成果に結びつくとは限らないが、(特に海外の)投資家に対して「ROE低下は一時的なものに過ぎず、将来の収益力改善でROEが再び8%以上に向上する」とアピールすることが必要ではないか。また、投資家も近視眼的にならず、中長期の目線で企業業績や株価の先行きを見通す姿勢が重要だ。

(*1)ROE=売上高利益率(当期純利益÷売上高)×資産回転率(売上高÷総資産)×財務レバレッジ(総資産÷自己資本)の式に基づいてROEを構成要素を分解する方法。

井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

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