中国人にとって不動産価格は、あいさつ代わりのように交わされる話題だ。タクシーの運転手と客という未知同士の間柄でも、あの地区の物件はいくらだの、数年前に○○○元で買っておいてよかっただの、普通に不動産情報の交換が行われる。まして知人の多い宴席において、不動産の話題が一度も出ないことなどあり得ない。不動産価格とは中国人にとって最身近な経済指標と言ってよい。
それがこのところ回復基調が明確となっている。2016年の中国経済にどんなインパクトを与えるのだろうか。その実態を探っていこう。
2016年、第一四半期の経済データ
不動産の前にまず発表された第一四半期の経済データをおさらいしておきたい。
・GDP成長率は△6.7%であった。これを当てるのは6.6%、6.7%、6.8%からの3択しかなく非常に簡単だった。建前を別にすれば、本気で信じている人など誰もいない。
・貿易総額(人民元ベース)は▲5.9%だった。輸出は▲4.2%、輸入は▲8.2%だった。
・全国固定資産投資(農家含まず)は名目△10.7%、実質△13、8%と発表された。
・社会消費品小売総額は△10.3%だった。そのうちネット通販は△27.8%伸ばしている。
次に不動産市場を詳しく見ていこう。
2016年、第一四半期の不動産市場
不動産市場分析のツールに、国家統計局から毎月発行される「全国70大中都市住宅販売価格変動状況」がある。名の知れた都市はほぼ網羅されている。
さらに四半期ごとに「全国不動産開発投資並びに販売状況」が発表される。これらを参照しながら地元紙を見て、地方政府や地元不動産業界の動向をチェックする。
これが一般的な分析手法だ。地元紙の記事は、地方政府の意向を先取りしている。悲観的な観測は絶対に書かない。ここでも政府は公正な第三者ではなく、プレーヤーである。不動産取引ごとにがっぽり税金が入る仕組みになっていて、取引件数の落ち込みは死活問題となる。
第一四半期の全国不動産投資は、前年同期比名目△6.2%、実質△9.1%だった。2015年は通年で名目△1.0%だったため、今年に入って急速に回復している。
販売実績を見ると、面積は△33.1%、販売額では△54.1%も伸びている。これを発展の著しい東部沿海部に限ると、面積は△44.2%、販売額は△72.8%となる。沿海部の大都市で活発になっている。
また在庫は7億3516万平方メートルで、416万平方メートル減少した。用途別では住宅▲652万平米、オフィス▲40万平米、商業△117万平方メートルで、商業用途だけが増加、だぶついている。大都市中心部では家賃が上がり過ぎ、実店舗を構えた商売はもう難しい。
2016年3月の不動産市場分析
さらに3月の状況にフォーカスしてみよう。新築住宅価格指数の前年同期比では、深セン162.6、上海130.5、南京117.8、北京117.6、厦門115.9、以上が値上がりトップ5である。同じく中古住宅価格指数は、深セン160.5、北京136.1、上海127.3、合肥123、6、広州118.5の順だった。
北京、上海、深センの3大メガシティで市場が活性化している。特に深センは1年で60%以上も上昇した。完全にバブル再来である。
また新築物件では70都市中、上昇40、下落29、横ばい1、中古では上昇46、下落23、横ばい1だった。多くの都市は、指数98〜103の範囲に収まり、落ち着いている。
一般的な都市として青島市を検証
次にそんな落ち着いた都市の一つ、山東省・青島市を例にとって検証しよう。
同市の新築住宅価格指数は、101.2、中古住宅価格指数は101.5であり、1年前とほとんど変わっていない。
しかし取引内容は大きく変化している。3月の新築成約件数は前年同月比△82.5%と大幅に増加した。中古販売はさらに好調で、△218%となった。それでも価格上昇がわずかにとどまっているのは、価格の安い郊外地区での取引が盛んだったためだ。
統計には直接載らない賃貸の世界でも、状況は好転している。賃貸仲介を中心とする小さな不動産屋の話では、今は退去者が出てもすぐに後釜が決まるそうだ。また複数の物件を持つ大家に聞いても、そのような感触で間違いないという。
今週の地元紙には、不動産登記所に朝から行列ができている、というニュースが載った。4月も不動産取引の活況は続いているもようだ。地方政府はニンマリしているだろう。快心の笑みまで浮かべているかも知れない。
踏ん張る中産階級
つまり不動産バブルの様相を呈しているのは、深センを筆頭に、上海、北京の一等地だけである。
すでに一般大衆には手の出ない価格になった。金持ち同士が転売を繰り返し、値を釣り上げているだけだ。したがってこのバブルは弾けても大した影響はない。
昨年の株式バブルの代わりで、中国経済に定期的に発生する“おでき”のようなものと思えばよい。この件で中国崩壊論の裏付けとするのは的外れだろう。
実際には、地方都市の不動産市況は意外に堅調だった。経済減速で苦しい立場にある中産階級が懸命に踏ん張っているからだろう。しかし踏ん張り切れるかどうか。経済統計ではわからない彼らの動向こそ、今後の中国経済を占うカギになる。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)
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