4月26、27日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で注目された政策金利は据え置きとなった。25日現在のCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のフェドウオッチの4月の利上げ確率はゼロであり、大方の予想通りとなった。すでに市場参会者の関心は次回6月のFOMCに移っているが、4月8日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)によると、6月に利上げを見込むエコノミストらが約75%と大勢を占めている。だが、ウォール街の市場関係者からは「6月でも難しいのではないか」との声も出ている。6月の追加利上げの可能性を探ってみよう。
利上げの必要はまったくない?
まず、マクロ経済データを確認すると、FRB(米連邦準備理事会)がインフレ指標として注視している2月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比で1.0%上昇、変動の激しい食品とエネルギーを除くコア指数をみても同1.7%上昇と目標としている2.0%に届いていない。また、成長率をみても、10〜12月期のGDP(実質国内総生産)は前期比年率1.4%増加と低い伸びにとどまっている。
さらに、アトランタ連銀が公表しているGDPナウによると、19日現在で1〜3月期の実質GDPは同0.3%まで伸び率が低下する見通しとなっている。また、今月からニューヨーク連銀が公表を開始したナウキャストによると、15日時点での1〜3月期の成長率は0.8%、4〜6月期は1.2%と予想されている。1〜3月期のGDPはFOMC翌日の28日に公表されるが、市場の予想も0.6%程度と1.0%を下回っている。
したがって、米経済は低成長・低インフレで景気に過熱感はうかがえず、利上げを検討する必要があるのかどうかすら疑わしい状況にある。
エコノミストの予想はFOMCの見解を反映
このように米経済は利上げを実施する状況にはない模様だが、これはマーケットにも織り込まれている。25日現在のフェド・ウォッチでは6月の利上げ確率は23%、9月が49%、12月が71%となっており、6月の追加利上げの織り込み度は低い。年末までに1回、利上げができるかどうかとなっている。
ではなぜ、エコノミストらは6月の利上げを予想しているのか。おそらくは、予想というよりも単純にドットチャートを反映しているからではないだろうか。ドットチャートとはFOMC参加メンバーによる金利予想のことで、3月のFOMCでは年2回の利上げが示唆されている。WSJの1月調査ではエコノミストらの大半が3月のFOMCでの利上げ予想していたが、これは12月のFOMCでのドットチャートが年4回の利上げを示唆していたことを反映していると思われる。したがって、エコノミストらの予想といっても、FOMCの予想を映しているに過ぎず、市場の見方と温度差があるのはこのためであろう。
タカ派の3人とロックハート総裁
それにしても、なぜFRBは年内に2回の利上げを見込んでいるのか。まずは、FOMCでもタカ派とみられている3人の連銀総裁の見解をみてみよう。
前回3月のFOMCでは、カンザスシティ連銀のジョージ総裁が唯一の反対投票を投じている。同総裁は「インフレ率が目標に向かって上昇している」こと理由に即時の金利引き上げを主張した。また、クリーブランド連銀のメスター総裁も最近はタカ派的な発言が多く、「長期的な見通しに変化がないのであれば、短期的な変動を考慮して利上げを先送りすべきでない」との立場で「緩和の度合いを縮小していくことが適切」としている。加えて、セントルイス連銀のブラード総裁も「利上げ推進が賢明」「名目金利はもう少し高いほうがいい」などと発言しており、利上げに前向きな姿勢を見せている。
利上げを支持するスタンスには微妙な違いがあるものの、緩和的な金融政策が長期化するメリットよりもその副作用が大きくなるとの考えが根底にある。景気への配慮はもちろん必要なのだが、金利の「正常化」を優先させる傾向にあるとも言える。
一方、景気への配慮を優先して「正常化」を急がないとしているのがイエレン議長を含む執行部であり、ハト派と称されている。こうした タカ派とハト派のバランサーとして注目されているのが、アトランタ連銀のロックハート総裁だ。同総裁はこれまで、米経済は利上げに耐えうるとの判断から、年内2~3回の利上げが正当化できるとしていた。しかし、最近になって米景気が下振れているとの見方から、利上げの支持を撤回している。そして、注目を集めいてるのが同総裁が6月の利上げ条件として以下の4つの前提を示したことだ。
(1) 2%成長の達成に十分なほど4〜6月期に景気が持ち直す
(2) 毎月20万人の雇用増の継続
(3) インフレが加速しているという証拠
(4) インフレ期待が低下しないこと
もちろん、FOMC内でのコンセンサスではないのだが、通常はハト派よりとみられている同総裁が示した条件をクリアすることができれば、利上げの可能性はかなり高いといえる。逆に、この条件をクリアできなければ利上げは難しいとも判断できよう。
成長鈍化で6月利上げのハードルは意外と高い
昨年12月に年4回としていた見通しが年2回に引き下げられた理由は主に海外経済の下振れにあり、背景にはドル高があった。ドル高が、原油を始めとする国際商品価格を圧迫し、ドルと連動している人民元の切り下げ観測を強め、新興国からの資金流出を促したからだ。したがって、ドル高が是正され、世界的に株価も持ち直した現在、利上げ準備は整ったようにもみえることから、6月の利上げに肯定的となるのも一理ある。
しかし、海外経済への不安が後退した一方で、台頭してきたのが国内経済の失速懸念である。10〜12月期の1.4%成長ですら期待を下回っている現状で、1〜3月期が1.0%以下、4〜6月期も1.0%台前半となれば、ロックハート総裁の基準からは程遠い成長となる。
原油価格の回復などから物価は2.0%へ向けて着実に上昇してくる可能性が高いが、その一方で成長率は低空飛行を続ける可能性がある。したがって、物価を重視するタカ派からは利上げを求める声が強まり、景気を重視するハト派は利上げにより慎重になることで、対立構図が一段と鮮明化するかも知れない。そうなると、利上げに向けてコンセンサスを形成することはますます難しくなる。景気が減速した場合には、最終的には絶対数で上回るハト派の意見が優勢となり、2.0%成長に自信が持てるまでは利上げは先送りされるというシナリオも想定しておくべきであろう。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)
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