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(写真=PIXTA)

中国は「薬房(薬局)」が大変多い。商店が50メートルしか続かない小さな田舎集落でも、片側だけで4~5軒の薬局が並んでいた。日本のドラッグストアと違い、薬に特化し、化粧品や日用品は置いていない。さらに日本にはない、漢方調剤薬局が存在する。

とにかく薬は田舎でも食品のように入手できる。ネット通販も盛んである。中国人は薬に対して並々ならぬ情熱を抱いている。売上はぐんぐん伸びているし、日本を訪れれば「爆買い」して帰ってくる。中国人にとって薬は、恋人のようにも見える。

薬の売上は右肩上がり

国家統計局の毎月発表する社会消費品小売総額によると、「中西薬品」という項目の伸び率が非常に高い。「中」は漢方薬、「西」は西洋薬のことである。2016年3月には、前年比△19.8%伸びている。全体では△10.4%だから、平均の約2倍だ。2015年3月からの1年間を見ても毎月平均を大きく上回っている。

3月の「中西薬品」売上(一定規模以上)は688億元で全体の6.23%を占める。これに化粧品195億元を加えると、構成比は7,99%になる。

ちなみに日本の統計(商業動態統計)では医薬品・化粧品の小売総額(140兆6660億円)に占める割合は9兆2240億円6.56%だった。これには500万人の中国人旅行者の購買分が含まれている。

仮に彼らが一人当たり2万8130円買っていれば、この数字は0.1%低下して6.46%となる。構成比は1.5%ほど中国が高い。

中国人の理想は地位上昇と長寿

中国人の理想とは一族の繁栄と長寿である。繁栄とは子供や孫に恵まれること、社会的に上昇し、金満となることを指す。長寿は個人的目標にとどまらず、老人の存在は一族繁栄の証明、花でさえある。

古代から医薬に関するエピソードは事欠かない。紀元前3世紀、当時世界最大の権力者だった秦の始皇帝は、?不老不死の仙薬”を求め、徐福を東方(日本?)へ派遣した。

三国時代の天才医師・華佗は、麻酔を考案し、開腹手術を行っていたという。ただしあまりに突出していたため、著書どころか、一族や一門の秘伝としても残らなかった。

そして中国人は今に至るも、長生きの仙薬や秘伝を求めて彷徨している。

先日、国家統計局は2015年の人口動態調査を発表した。それによると60歳以上の人口は、2億2182万人、構成比は16.52%である。これは5年前の2010年比で2.89%上昇している。

この傾向はさらに進み、高齢化社会が到来する。地方紙は、医療機関と介護施設の連携について特集を組んでいた。高齢化の進展が医薬品売上を後押ししている。なお病院の薬は院内処方である。

2014年の薬剤師国家試験で2440人がカンニングで失格

◎漢方薬

都市には大型の漢方薬局がある。中国風の内外装、そして漢方薬剤をフルラインで品揃えしている。視覚と嗅覚は中国で一杯になる。自前の漢方医も置くが、他の漢方医からの処方箋受入れがメーンである。

処方せんは独特の字体で書かれ、業界関係者しか判読できない。そのためいかにもプロっぽい雰囲気を醸し出す。この種の大型調剤薬局は、薬剤ごとに定価がある。当たり前に見えてこれは素晴らしい。小さな漢方医の直接処方する場合、値段は患者の財力によってまったく違う。

◎西洋薬

各省、各地域を主要出店エリアとするローカルチェーン店が多く、これは日本のドラッグストアと変わらない。品揃えは中小型店では、ほとんど薬と衛生関連のみである。大型店では漢方薬コーナーや化粧品コーナーもある。中国薬局の特徴ははっきりしている。

(1)欧米系メーカーの薬が何もないこと。(2)医師の処方箋なしで広範囲の薬が買えること。(3)値段が高いこと。の3点である。

中国では医療保険が完備されていない上、病院は初診料を収めない限り診察しない。それなら病院より安い薬局の薬で済まそうとなりがちだ。

医療機関が不十分な田舎では病院の代替である。その結果、医者のように振る舞う、居丈高な薬剤師を輩出する。薬剤師は人気があり2014年10月の国家試験では、大量2440人のカンニング失格者を出し話題となった。

単なる風邪や下痢であっても強力な点滴を処方する

中国人は効果が上がらないとなると「大夫(医術者の尊称)」を換えることにためらいはない。

漢方でも某鍼灸院の常連たちが、そろって別の鍼灸院へ移動していた、などは日常的に起こっている。また自ら体を鍛えるより他力を好みがちな傾向もある。

いったん病院へとなれば、軽い処置では納得しない。病院側も単なる風邪や下痢であっても強力な点滴を処方する。

ある日曜日の夜、事情により大総合病院の小児科救急を見学した。両親と座れるベンチ式小児科専用の点滴装置が、20も並んでいて壮観だった。実際半分以上稼動していた。休日に急病となった子供は必ずここで点滴を受けるのだ。

以上の状況をまとめてみよう。

・仙人を目指し長寿を求めてやまない伝統的思考。
・高齢化社会の急進展。
・高価な病院医療への不信、拙速に効果を求めすぎの傾向。
・病院機能の代りとして、一定の薬局への期待。
・欧米系薬品はなく、品揃えには不満だが他に代替はなし。

伝統的思考に高齢者の増加、医療、医薬品業界の規制と未整備の隙をついて薬業界は繁栄している。制度改革があったとしても、アイテムを変えながら売れ続けるだろう。

中国では薬屋こそ“不死”の存在である。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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