米投資週刊紙『バロンズ』が毎年4月と9月に著名な機関投資家に対して行うアンケート調査「Big Money Poll(ビッグマネー・機関投資家聞き取り調査)」は、20年の歴史を誇る市場の恒例行事だ。

今年は例年以上に注目を集める結果に 米株価は平均10%下落

調査対象が裕福な投資家であるため、回答者の多くが共和党支持者であるという偏りがある。しかし、勘が鋭く読みが深い、選りすぐりの著名投資家が回答者に選ばれているため、景気や政治の動向について「よく当たる」と評判だ。多くの機関投資家や個人投資家が調査の結果に注目し、投資指針に活かしている。

その「Big Money Poll」の今年4月の結果は、いつも以上に反響が大きかった。同調査の歴史の中で、回答者の予想が最も悲観的であったからだ。たとえば、回答者の3分の2が、向こう1年の米株価は企業業績の悪化に引きずられて、平均10%以上下落すると述べている。

また、向こう1年の米国株式に対する見通しで、「強気」は昨年9月の53人から35人に急減し、過去5年で最低のレベルに落ちた。さらに、「強気」が減った分、「中立」が29人から46人へと増えており、全体的に「弱気」方向へのシフトが目立った。なお、「弱気」そのものは14人から16人に微増しただけで、「弱気」の見解が回答者全体を支配するには至っていない。

米投資銀行ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのマネーマネージャーであるジェフ・ショーンフェルド氏は「Big Money Poll」に対し、「我々は、高株価と記録的な低金利環境にあり、そうしたなかで高リターンは期待しづらい」と解説。別のマネージャーも、「米株式で5%のリターンと2%の株主配当が得られれば、それで御の字だ」と語っている。

2017年の米株式市場を牽引するのは「エネルギー株」

米投資紙『インターナショナル・ビジネス・タイムズ』のオーエン・デイビス記者は「Big Money Poll」の結果を評し、「これらのコメントは、4月25日の週に株式が下げて始まったウォール街で蔓延するムードを代表している」と述べ、同調査が投資家全体の考えを正確に反映しているとの見方を表明した。

現在の回答者の見解を昨年9月の調査と比べてみよう。多くの回答者は当時、「米経済は堅調に成長を続け、2016年中頃までに米株価は平均7%上昇する」としていた。半年の間に、米経済の変調が顕在化したことがうかがえる。

米商務省が4月28日に発表した1~3月期の実質国内総生産(季節調整済みGDP)速報値は、前期比年率換算で0.5%増にとどまっており、4月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも、米経済について、「活動は鈍化したように思われる」との見解が示された。回答者の「弱気」方向へのシフトには、それなりの根拠があることがわかる。

なお、通年では回答者のほとんどが、米国のGDPが1.5~3%の成長を達成すると見ている。セクター別では、素材とエネルギーに対する強気意見が、過去5年で最高になる一方、金融とハイテクは過去5年で最も強気が少なかった。注目されるのは、28%の回答者が、「エネルギー株が、2017年の米株式市場を牽引する」としていることだ。

原油価格の急落で苦しんだ分野だが、いよいよ原油価格もエネルギー企業の株価も反転が始まるとの認識が広がっていることがわかる。金に対する強気感も増しており、昨年9月の29人から48人へと上昇した。

「アップルの黄金時代の終わり」

興味深いのは、アベノミクスの変調が目立ち始めた日本株に対する「強気」が同期間に63人から30人へと半減したことだ。自国株に投資する日本人投資家には無視できない傾向だ。

一方、米国株で回答者が一番に推奨するのは、「S&P 500指数の銘柄の中でお値頃感のある」アップルだ。向こう1年間に1株当たりの値が150ドルを超えることもあるとしている。だが直近では、1~3月期の業績が冴えなかったため、アップル株は4月27日に前日終値比8%も下げている。これを評して、「アップルの黄金時代の終わり」とするアナリストも出てきた。

さらに4月28日には、一部の「Big Money Poll」回答者を慌てさせる事態が起こった。「物言う大物投資家」として有名なカール・アイカーン氏が、経済専門局CNBCのインタビューで、「アップルが中国で直面する困難に鑑み、保有しているアップル株のすべてを手放した」と、爆弾発言をしたからだ。

アップル株は、前日急落した終値に比べさらに3%下落し、同日のダウ工業株30種平均が200ドルを超す下げ幅になる一因を作った。この急落を、回答者たちの言う「アップル株のお値頃感」と捉えるか、彼らの推奨優良銘柄にさえ深刻な変調が水面下で進行していると捉えるかは、判断の分かれるところである。

米大統領選の勝者も予想している

なお、「Big Money Poll」回答者の推奨する他の銘柄は、エクソン・モービル、シスコ・システムズ、マイクロソフトなどだ。
バロンズの「Big Money Poll」では、晴眼の投資家が政治の予測もすることで知られている。だが、今の米国政治はとても読みにくいため、精度は今一つだ。

特に共和党の指名大統領候補については大外れで、昨年9月の予想では、すでに選挙戦から脱落したジェブ・ブッシュ氏とマルコ・ルビオ氏はともに30%の回答者が「大統領候補の指名を獲得する」と予想した一方、現在最も勢いのあるドナルド・トランプ氏は11%に過ぎなかった。

翻って、昨年9月の予想では、民主党の指名大統領候補が誰になるかとの問いに対し、57%がヒラリー・クリントン前国務長官を挙げており、ヒラリー候補が指名獲得確実な現在の展開に照らし合わせると、読みがズバリ当たっている。

今回4月の予想では、3分の2の回答者が「ヒラリー候補が、11月の大統領選挙の本選で勝利し、大統領に就任する」としている。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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