米国経済は1〜3月期のGDP(国内総生産)で低成長が確認されたのに続き、先週発表された雇用統計も冴えなかったことから、ウォール街の市場関係者の間では「このままリセッション(景気後退)に向かうのではないか」と先行きを心配する声が増えている。米国はリセッションに向かっているのだろうか。その可能性を探ってみよう。

「そろそろ」危ないという漠然とした不安

5月5日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙には、ITGインベストメント・リサーチのチーフエコノミスト、スティーブ・ブリッツ氏の予想として「今後1年以内に米国がリセッション入りする確率は60%」との見方が紹介されている。同氏は弱気派の代表というわけではないのだが、このところ市場関係者の間に広まりつつある先行き対する不安を代弁しているようで、タイムリーな記事となった観がある。

WSJが毎月実施しているエコノミスト調査によると、1年以内にリセッション入りする確率は、昨年9月までは10%以下だったが、4月はおおよそ20%とほぼ倍増している。水準自体はまだ低いものの、最近発表された米経済指標が総じて弱かったことから、今後は確率がさらに上昇する可能性が高く、警戒感が強まっていることは間違いなさそうだ。

とはいえ、経験則として景気の拡大が「終盤」に入っている、といった漠然とした認識以外には、これといって景気後退への懸念を強める理由は見当たらない。

ジム・ロジャース氏もリセッションを予測

たとえば戦後の米景気循環では、景気拡大の平均期間は58カ月、前回の景気拡大期間は73カ月となっており、景気の拡大は5〜6年が一つの目安となる。前回の景気の谷は2009年6月だったので、景気の拡大はもうすぐ8年目に入ることになり、「いつリセッションが始まってもおかしくはない」との指摘は単純に過去との比較をしていることが多い。

ブリッツ氏の予想もおおむねこの考え方をベースにしている。また、少しばかり古い話となるが、3月4日付のブルームバーグの記事で著名投資家のジム・ロジャース氏が、米国は1年以内に100%リセッション入りすると語っている。ロジャース氏も、「米国はこれまで4〜7年ごとにリセッションを経験しているが、前回のリセッションから既に7〜8年が経過している」と述べている。

ブリッツ氏によると、景気の拡大が終盤を迎えると、ネガティブな材料に弱くなるという。そして、同氏がもっとも懸念しているのがFBR(米連邦準備理事会)の利上げである。昨年12月の利上げ開始後に米景気が失速していることを踏まえると、追加利上げが景気後退のきっかけとのなりうるとの指摘は的を得ているかもしれない。また、ブリッツ氏は中国経済も懸念しており、中国経済が減速するなかで6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げが実施された場合には、米国がリセッションを回避するのはかなり難しくなるとしている。

今後数カ月はまだ余裕?

経験則に基づいて、「いつリセッション入りしてもおかしくはない」という前提に立つならば、景気の変調を速やかに捉えるために月次統計も重要となる。

まずは最も注目度の高い雇用統計と景気循環の動きを確認してみよう。非農業部門の雇用者数は月次での振れが大きいことから、トレンドをみるのであれば3カ月平均でみたほうがよく、景気がピークを迎えると、この3カ月平均がマイナスになる傾向がある。たとえば2007年12月の景気の山からは4カ月後、2001年3月のピークではその翌月からマイナスに転じている。

逆の見方をすると、プラスが確保できているのであればまだ景気は後退していない可能性が高い。4月まで3カ月平均はちょうど20万人増加となっており、雇用統計をみる限りではかなり余裕があるといえそうだ。

次に注目したいのはシカゴ連銀が公表している全米活動指数で、この指数の3カ月平均がマイナス0.7を下回るとリセッション入りした可能性が高いとされている。3月までの3カ月平均はマイナス0.18とよい数字ではないものの、こちらも景気後退にはまだ距離がある数字となっている。ただし、過去にはマイナス0.5程度でもリセッション入りしている例もあるので、今後マイナス幅を拡大するようだと警戒を強める必要がある。

最後に株価と景気循環を確認すると、株価が前年水準を下回ると景気が後退している可能性が高い。S&P500株価指数(月平均)でみると、2007年12月に景気がピークアウトすると、ほぼ同時の2008年1月に前年同月比でマイナスに転じている。株価は昨年末からマイナス圏での推移が続いており、株価を中心にして考えると、1〜3月期はマイナス成長でもおかしくはなかった。現在はほぼ前年水準まで戻しており、危機的な状況は脱しているが、株価の伸び悩みと景気の先行きに対する不安はコインの裏表とも言えそうだ。

まずは6月FOMCでの利上げを警戒

つまり、米景気の拡大が過去の平均的な期間を越えて続いていることから、少なからぬ市場参加者が循環的なリセッションの訪れに神経質になっている可能性がある。

経済指標を確認してみると、リセッションを危惧するのは時期尚早と言える。一方で、米利上げや中国の景気減速をきっかけにいつリセッションが始まってもおかしくない状況にあることも否めない。

まずは6月のFOMCで追加利上げが実施されるのかどうかが、米景気がリセッション入りの可能性を見定める最初の分岐点となりそうで、もし実施された場合には1年以内の景気後退を真剣に検討する必要があるかも知れない。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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