三菱自動車の燃費データねつ造問題は、会社存亡の危機にまで至り、日本では大きく報道されているようだが、中国での報道ぶりはごく小さい。

事件発覚翌日の地方紙では国際面(裏一面)の中段に、わずか漢字240字の扱いだった。見出しは「三菱自動車、データねつ造を承認か」。記者会見の内容を淡々と伝える国営新華社通信の配信記事である。実はこの記事のとなりに文字量4倍以上の、日本関係記事が載っていた。見出しは「オーストラリアの潜水艦選び、日本締め出される?」だった。

中国における三菱自動車は玄人ネタ

一般レベルまであまり周知されず、人々の口端には上っていない。とはいえ対日ビジネス関連の人たちは関心を寄せている。経済関連ウェブサイトは連日後追いのニュースを載せているし、日本ウォッチャーのネットユーザーはコメントを寄せている。要するに玄人ネタなのである。

三菱自動車の知名度はどうだろうか。2015年の会社別自動車売上ランキング中、三菱ブランドの車を生産している会社は「広汽三菱」で、44位、販売台数は5万6317台である。三菱車のサイトにはその他に、東南三菱、北奔三菱、というメーカー名が見える。

広汽三菱は、2012年10月、資本金17億元、広州汽車集団有限公司50%、三菱自動車工業33%、三菱商事17%の出資比率で設立された。合弁期間は30年のため、まだ26年残っている。将来の目標は年産50万台とある。湖南省・長沙経済技術開発区にある工場は敷地面積60万平米、従業員は2400名。生産車種は、新勁炫(日本名・RVR)この車の売上ランキング118位、販売台数は5万781台。ということは販売台数の90%をRVR1車種で占めている。他には帕杰羅・勁暢(パジェロ・スポーツ)が入っている。

東南三菱とは、三菱自動車が出資(2006年4月)と技術協力をしている「東南汽車」で生産した三菱ブランド車を指す。実は東南三菱という会社はない。東南汽車は、福建省にある中台合弁企業。販売台数37位、7万5025台の小メーカー。三菱ブランド車と自社ブランド車を生産している。三菱車種は、翼神(ランサーEX)、藍瑟(ランサー)、君閣(ZINGER)、風迪思(ギャランフォルティス)、戈藍(ギャラン)の5車種。

北奔三菱はかつて、帕杰羅(パジェロ)欧藍徳(アウトランダー)を扱っていたが、今は取扱いをやめている。

「三菱製のエンジンだから買いました」は昔の話?

合弁相手の広州汽車集団は、ホンダ合弁の「広汽本田」(2015年販売58万0068台、アコード、オデッセイ、シティ、フィット)とトヨタ合弁の「広汽豊田」(同40万3088台、カムリ、ヴィッツ)を持っている。

これらに比べれば「広汽三菱」の5万6317台は微々たるものに過ぎない。世界戦略車を生産する2社が、3万台ずつ上積みすればそれで済んでしまう。

出資している東南自動車の業績もあまり芳しくない。かつて東南汽車のセダンを買った中国人は「三菱製のエンジンだから買いました」と話していた。ひと昔前ならそれなりの見識と言えた。それが今ではマニアックなカッコよさも技術的アドバンテージも感じない。また中国での販売車種は、日本で販売終了となった車が多く、このラインアップで戦うのは厳しい。何にせよ三菱の話題はマニアックなものでしかない。

これは相当につらい状態だ。得意のSUVで中国政府が推奨している‟新能源車”(新エネルギー車)、電気自動車に絞るなど、専門性と先進性でアピールした方がいいだろう。広汽三菱では今年9月、「アウトランダー」の発売を予定している。通常エンジンのようだが、PHVや電気自動車にまで踏み込めるかどうか。とにかくこの車に、中国での三菱自動車の命運がかかりそうである。

大衆汽車(フォルクスワーゲン)の存在感

経済サイトの記事を見てみよう。

大衆汽車の排ガス不正問題から1年もたたぬうちに、今度は三菱で燃費不正問題が発覚した。日独の先進的技術、工芸的な精度、高い耐久性などの“神話”はどこへ行ってしまったのだろうか。人々の心象に変化を来さずにはおかないだろう、という記事がある。

さらに記事はここ1年の大衆汽車の苦境を、数字を挙げて詳しく紹介している。天文学的な損失だ、としながら、最近のアメリカ環境保護庁との交渉進展など、解決に向けた動きにもページを大きくさいている。三菱の行く末よりも大衆汽車の今に関心を向けている。

確かに大衆汽車のニュースは日々途切れることはない。値引き拡大、新型車の紹介などが中心だが、対日ニュースの厳しいトーンを見慣れた目には、どこか温かい視線を感じる。

鄧小平と交渉して、1984年に最初の外資系自動車工場「上海大衆」を立ち上げ、一時はシェア40%超といわれた大衆汽車の存在感はやはり群を抜いている。

また現在、山東省・青島市即墨工業園では「大衆汽車華東地区生産基地」の建設が佳境に入っている。2017年中には第1号車をラインオフ、翌2018年には年産30万台体制を構築する。雇用創出効果は1万人以上だ。頑張ってもらわねば困るのである。

つまるところ大衆汽車と三菱自動車では、習近平流の表現ではトラとハエの大差があった。ただしこのところ日本に対する政治的関心は以前ほど高くない。先の日中外相会談もほとんどニュースにならなかった。この状況を奇貨として、三菱にはアウトランダーで何とか頑張ってもらいたい。(高野悠介、中国在住の貿易コンサルタント)

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