米金融大手シティグループが金利の不正操作疑惑で多額の和解金支払いに応じるという。世界の大手金融機関によるこの種の不正は後を絶たないが、何より心配なのは一般投資家への影響だ。

初犯にあらず、シティの金利の不正操作疑惑

そもそも罰金と和解金とはどう違うのか。罰金は刑罰の一種として課せられるもので、和解金は争っていたもの同士が譲歩して決着した時に一方から支払われるものだ。和解金で決着する場合は、実際に不正があったかも、その責任の所在も、うやむやにされることが多い。これを頭に入れて、5つの事件を見てみよう。

1.16行が関わるロンドン金利不正

今回の疑惑は、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)や金利スワップ指標に関するものだ。和解額は4億2500万ドル(約470億円)にのぼる。ただ今回、シティだけでなく、世界に名だたる16行が疑惑の対象になっている。JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ・メリル・リンチの米企業に加え、英国のHSBCホールディングスとバークレイズ、さらにはクレディ・スイス・グループ、ドイツ銀行など。

これら16行が共謀して価格を操作した疑いだが、和解に応じたのはシティのみだ。今のところ、その他は態度を明らかにしていない。

2.外国為替の不正誘導 ‘15

こうした不正操作事件は毎年あとを絶たない。シティが9億2500ドルの罰金を支払った2015年5月の外国為替の不正操作。このときもJPモルガンやバンク・オブ・アメリカ、バークレイズなどが絡んでおり、合計56億ドルの罰金を科せられた。

3.住宅ローン担保証券不正販売

14年にもシティは70億ドルの和解金を支払っている。この時はリーマン・ショックの契機となった米国の住宅ローン担保証券(MBS)の販売方法をめぐるものだった。映画「マネー・ショート」にも登場した、信用力の低い個人向けの住宅融資債権である。この事件では、バンク・オブ・アメリカが166億5000万ドル、JPモルガンも130億ドルを支払っている。

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JPモルガンは金融事件の「常習犯」

このような罰金や和解金の支払いは毎年数百億ドルにのぼる。ロイターによれば、13年は当局が命じた支払い総額が米国で約400億ドル、欧州で約30億ドルの合計約430億ドルと空前の水準に達したという。これはJPモルガンがシティと同様のMBS関連で130億ドルの和解金を支払ったことが大きい。これは約3年が経った今も破られない史上最高額である。

4.ロンドンの鯨によるデリバティブ巨額損失

JPモルガンも多くの金融関連事件に顔を連ねる。上の2つのほか、13年に「ロンドンの鯨」と呼ばれる同社トレーダーによるデリバティブ巨額損失事件が発覚。この事件は保険型デリバティブ商品(CDS)市場で、値動きを根本的に読み誤ったことに端を発している。その後雪だるま式に損失は膨らみ、60億ドル(約4670億円)に達した。この時、JPモルガンは9億2000万ドルの罰金を支払っている。

5.米国最大の金融詐欺「マドフ事件」

14年には、罰金など総額17億ドルを科せられている。この時は、米国最大の金融詐欺事件「マドフ事件」で主取引銀行としての責任を認めている。マドフ事件とは元ナスダックの会長による詐欺事件で、野村證券など日本の大手金融機関も被害に遭っている。

懲りない面々にお灸をすえるのは当局か?投資家か?

為替や金利は顧客と金融機関が相対で取引し、それで相場が形成されるケースが多い。複数の金融機関が共謀して顧客を騙す違法な価格操作は断じて許されない。金融機関のトレーダーが顧客の動きを見透かして裏で共謀し、自分たちに有利になるよう価格操作するのは明らかに悪意に満ちた詐欺行為だ。

このようなことが繰り返される要因は、やはり金融機関の経営体質と人事評価システムにあるのだろう。経営者は収益拡大のために実務担当者にプレッシャーをかけ、担当者は業績を上げようと無茶をする、という構図だ。その動機が多額のボーナスを期待してか、クビにされないためかの違いは関係ない。

金融機関のもうけすぎや巨額報酬などに対する厳しい世論を味方に、欧米当局は不正の摘発に力を入れている。とくに米当局は外国金融機関にも鋭く目を光らせている。だが、罰則が軽すぎるから減らないのだとの指摘も多い。

冒頭に紹介した金利不正操作疑惑をめぐっては、反トラスト法(独禁法)訴訟が起こされている。原告は一般投資家らで、LIBOR関連証券で損害を被ったとして、被告は16行だ。不正で直接被害をうけるのは資産運用会社や年金基金だが、それを通じて最終的な損害を被るのは個人を中心とする受益者だ。

JPモルガンは130億ドルの和解金を支払った13年でさえ179億ドルの多額な純利益を享受している。まずは、当局が不正を立証して「懲りない面々」に巨額の罰金を科すこと。そして、解雇要求も辞さずに、不祥事を起こすととんでもない厳罰が待っていると理解させることが重要だ。そうすれば社内のガバナンスも自ずと強まるのではないだろうか。(シニアアナリスト 上杉光)

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