中国人は自由自在に振る舞っている。どこにいてもそこには守るべき一定の規範があるはずだなどとは考えない。法といい規範といい、ルールといい交渉次第の相対的な基準でしかなく、これこそ官僚腐敗文化の背景だ。

しかし交渉や贈収賄の効かない最後の一線がある。それは国内治安を乱し、社会不安をあおる行為だ。これに関してはネット上の小さな妄言をも見逃すことはない。

中国のネット情報統制、主席発言も規制の対象に

こうしたネット情報規制に対し、中国人はどう反応しているのか。

ときどき政治家のパロディー画像、マル秘お宝映像などがネット上に流出する。中国には微博(ミニブログ)とよばれるTwitter、Facebookのようなサービスが「新浪微博」「騰訊微博」など8つある。それらにアップロードされ、こんなのを見つけたよと「微信」により“朋友圏”へ紹介する形で一般に拡散する。

揶揄(やゆ)の対象となるのは、中国人では江沢民、外国人では金正恩が定番である。スクープ映像では、4兆円の隠し財産を残して失脚した元中央軍事委員会副主席のお宝ルームの印象が強烈だった。大量の玉製品や珊瑚のコレクションなどまるで美術館と見紛うばかりだった。

これらは全国的な話題となる前に削除される。民衆もそのことを理解していて、花火のような瞬間芸として楽しんでいる風である。中国とはこんなものだ、という諦観も社会を支配している。

日々のニュースも同様だ。まずいと判断されれば直ちに削除される。この点で面白かったのは、昨年12月末に開催された「中央都市工作会議」の報道だ。習近平主席による「30句講話」が発表され、中国の都市化(2014年の都市人口7億5000万人、経済総量の80%が集中)における問題点が語られた。

その講話内容は、すぐにネットニュースにアップされたが、翌日にはアクセスできなくなった。あまりに深刻な問題を赤裸々に語り過ぎたため、内容を修正していたのだ。この場合、主席の発言が社会不安を煽ったと見做された。情報統制は現政権の生命線なのだ。

中国のネットインフラ規制 Googleを締め出す

アップされた有害情報を監視、削除することに加え、有害サイトへのアクセスをブロックすることも重要だ。ネット治安維持の車の両輪である。当局の指示に大人しく従わない外国のネットインフラ企業はやっかいだ。規制をかければ、言論統制、独裁政権の横暴などと、世界中に発信される。お引き取りを願うのに越したことはない。

2010年3月22日、Googleは中国本土からの撤退を発表した。中国からGoogle Japanのサイトにもアクセスできなくなった。当初は可能だったGoogle Hong Kong経由のアクセスも、3カ月でダメになった。

現在もGoogleにはまったくアクセスできず、筆者も検索エンジンはYahoo! Japanを使っている。ビジネスメールの大定番Gmailは、使用できるがツカえないという状況だ。送受信に大きなタイムラグがある。

例えば某日は、11時〜17時までのメールを、21時に一斉に受信した。感覚で言うと受信には通常1時間〜4時間かかっている。困ったのは日本のインターネットバンキングだ。当時は銀行から送られたワンタイムパスワードを30分以内に入力しないと取引が成立しないシステムだった。Gmailを使っていては永久に間に合わない。

送信もいつになるかわからず、ビジネスシーンでは用をなさない。そのため個人用として、また日本に一時帰国した際の送信用として、限られた用途で使っている。

以後、この前例を踏襲し、中国はLINE、Twitter、YouTube、Facebookなど、外国発の新しいネットインフラを次々とブロックしていく。

対抗手段はVPN

この強固な中国のグレートファイアーウォ−ル(金盾)を突破し、欧米系ネットサービスにアクセスするにはVPNを構築するしか方法はない。その結果中国には、この目的のためだけの、日本人向けVPN業者が乱立した。日本人と中国人でタッグを組んだ中小業者が多い。また新業態のためメンバーの移動が頻繁にあり、契約には注意を要する。

とはいえ、すでにおすすめランキングまで発表されていて、参考資料には事欠かない。たいてい無料お試し期間を経て、1カ月1000円前後のサービス料である。完全無料サービスもある。

駐在員の間では、よほどのヘビーユーザーでない限り無料サービスで構わない、という意見が多いようだ。

ここでは、強力な中国の規制に対し、ともかく対抗手段を担保していることを評価すべきだろう。

大きな戦果を収めた規制

中国のネットインフラは、この5年で驚異的な発展を遂げた。

ネット通販のアリババ、決済システムのアリペイ、騰訊の微信と微信支付、新浪微博、配車アプリの滴滴出行など、新たなサービスの登場と普及により、中国のIT生活は一変した。そしてこれら中国企業発のネットインフラやアプリは中華圏の枠を超えて浸み出し、世界で利用が拡がっている。これは欧米勢の締め出し効果に違いない。

中国の戦略は、アメリカと対抗しつつ、1位、2位の強者連合の利益をもしっかり享受しようという都合のいいものだ。

今後の主戦場であるIT界において、欧米に対抗し得る武器を入手したことは大きな戦果だ。ネット規制は、体制の擁護にも、IT起業にも大きな役割を果たしている。こんな有用なものはない。したがって今後も強化され続け、決して緩むことはないだろう。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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