原油相場が一時50ドルの節目を回復し、世界的な株価の上昇にも大きく寄与したことから、このまま緩やかに上昇トレンドを維持して欲しいと願うのは産油国ばかりではなく、投資家も同じであろう。しかし、ウォール街の市場関係者からは「(相場が崩れた)昨年と同じ展開となる可能性はかなり高いのではないか」と現在の水準維持には懐疑的な声も聞かれる。昨年との相違点などを点検し、今後の原油相場を占うポイントを探ってみよう。

原油価格の上昇でリグ数が増加に転じる

原油価格の下落歩調に合わせて減少していたリグ(油田の掘削施設)稼動数が増加に転じている。6月10日現在のリグ稼動数は328基と前週より3基増加し、5月27日時点の316基から2週連続で増加した。リグ数は5月13日時点の318基から増加に転じており、減少にほぼ歯止めがかかったと見て良さそうだ。

昨年を振り返ると、原油価格は3月下旬に40ドル台前半にまで低下した後に切り返し、5月中旬に当時シェールオイルの採算ラインとされていた60ドルを回復した。しかし、7月上旬にリグ数の増加が確認されると値を崩し、7月下旬に50ドルの節目を割り込むと、8月下旬には40ドル近辺へと続落した。

ちなみに、技術進歩により現在の採算ラインは40~45ドル程度と推計されている。ここ数カ月の値動きをみると、40ドル台に乗せたのが4月中旬、45ドルを越えてきたのが5月中旬で、採算ラインの回復とともに増加に転じたことが分かる。

こうした動きを踏まえると、概して45ドル以上を維持する限りリグ数は増加し、40ドル以下にならないと減少しないと考えてもよさそうである。となると、当面は40ドルを目指す公算が大きいのではないだろうか。

ただし、ある市場関係者によると「(昨年のことがあるので)シェールオイルの生産者はリグの再稼動に慎重になっている」との指摘もある。リグ数や生産量の増加をきっかけに原油価格が反落した昨年の経験を踏まえて、今年はより慎重に増産を進めることになりそうで、増産ペースなどは控えめに考える必要があるかもしれない。いずれにしても、今後発表される統計数字を確認しながら、こうした推計が正しいのか検証することが肝要だ。

供給障害が解消する可能性も想定すべきか?

原油相場の上昇を主導してきたのは相次ぐ供給障害だ。原油の需給バランスは、ざっと100万バレル程度の供給過剰にあると推計されていたが、相次ぐ供給障害により供給過剰が解消されたとの見方が広がっている。最近の主な供給障害としては、クウェートでのストライキ、カナダでの大規模な山林火災、ナイジェリアでの武装勢力による石油関連施設の破壊、リビアでの港湾封鎖などが挙げられる。

クウェートではストは終結しており、カナダでの山火事も沈静化したことから両国での生産はすでに回復が伝えられている。したがって、残された障害はナイジェリアとリビアということになる。

まずリビアをみると、5月の生産量は日量29.6万バレルで4月の34.8万バレルから5.2万バレル減少した。2015年通年では40.5万バレルだった。当面生産の回復は見込まれていないものの、既に生産の水準が低いことから、更なる生産の低下によるインパクトは小さいとみられている。

一方、国家の統治機構が破綻状態にあるリビアがイスラム過激派組織の温床となることや、リビア経由で欧州への難民が急増していることが国際的な問題となっている。こしたことから、国際的な支援体制が徐々にではあるが構築される兆しはある。統治が安定すれば生産量は短期的に100万バレル、中期的には150万バレルへの回復が見込まれている。

リビアに関しては、供給障害が長期化する可能性が残されている一方で、障害が解消されて増産に転じる公算もあるので、強弱どちらの材料にもなりうると考えたほうがよいだろう。

ナイジェリア問題解決の糸口は?

ナイジェリアの5月の産油量は日量142万バレルと前月比から25万バレル減少した。2015年は187万バレルとなっており、過激派組織による供給障害で約50万バレルの減産となっているようだ。

ナイジェリアは国家収入の大半を石油に依存しているが、その大部分が使途不明とされている。これまで、石油パイプラインの警備という名目で過激派組織に資金提供をしてきたが、腐敗撲滅を理由に停止したことが過激派による石油施設破壊を招いたとされている。過激派の目的が賄賂の受け取りであることを考えると、石油関連施設を破壊し過ぎると原資が少なくなってしまうほか、財政が破綻して政府自体が崩壊してしまっても都合がよくない。

ナイジェリアの石油利権は宗教問題も絡んで複雑であり、腐敗も深刻なことから、解決の糸口は見つけづらい。しかし、最終的には「お金」の問題なのであれば、共倒れしないところで妥協するのが双方にとって得策となることは容易に理解できよう。

既に20数年来の低水準への産油量が落ち込んでいることを考えると、このままの状態が長期化することは双方にとってメリットがない。したがって、複雑な問題にもかかわらず、意外にあっさりと妥協点を見つけることも考えられよう。

OPECの増産余力はそれほど大きくないと言われているが、これは供給障害からの回復を除いての話しとなる。リビア、ナイジェリアでの供給障害が解消された場合には、その分が増産余地となり、需給の均衡からは遠のくとともに、供給過剰へと回帰する可能性がある。

ベネズエラというワイルドカード

最後にベネズエラの動きを確認しておくと、5月の産油量は日量218.8万バレルと4月から6.9万バレル減少した。2015年の235.7万バレルからは16.9万バレルの減少となっている。IMF(国際通貨基金)によると、2016年のインフレ率は720%、2017年は2200%となっており、実質的に破綻していると言っても過言ではない。実質成長率の見通しは2016年がマイナス8%、2017年はマイナス4.5%となっている。

ベネズエラでは1月に経済緊急事態宣言を発表した後、5月には非常事態宣言も併せて発表しているが状況が改善している様子はうかがえず、今年に入ってから状況はむしろ悪化している。電力不足や施設の老朽化により原油生産が落ち込んでおり、引き続き生産が減少する可能性がある。

リビアやナイジェリアでの供給障害が長期化し、ベネズエラでの生産減少が継続した場合には、需給の緩みが速やかに解消されることも想定されるので、原油価格が再浮上する場合にはベネズエラがきっかけになるかもしれない。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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