今年3月末の月間アクティブユーザー数が2億1800万人に達し、欧米各国など海外でのさらなる成長を狙う無料メッセージアプリ「LINE(ライン)」。このアプリを提供するLINEが、7月15日に日米同時株式上場(IPO)を計画している。

想定株価2800円で、上場時の時価総額約5800億円となり、日米ともに今年の新規IPOとしては最大公開規模となる。最近の市場で「ユニコーン」と呼ばれる時価総額の大きい銘柄に期待通りの高値がつかずにIPO延期が相次ぐなか、ド派手な同時上場となる。

今回の国内公募は1300万株にとどまるのに対し、海外公募は倍近い2200万株と海外比重が大きいこともあり、6月28日から始まる抽選申込期間を前に、米国メディアの注目度も高い。米主要経済紙の『ウォール・ストリート・ジャーナル』をはじめ、高級紙『ニューヨーク・タイムズ』や、ビジネス誌『フォーブス』、IT系情報サイト『テッククランチ』などが、こぞって日米同時IPOのニュースを大きく取り上げた。

だが、①日本など一部アジア諸国ではウケる「かわいい」スタンプが現地文化の壁を越えられないと見られること、②顧客数の伸びが頭打ち傾向にあること、③最近の市場環境がIPOには厳しいこと、④LINEの投資家向け・メディア向けのコミュニケーション戦略が失敗していること、などの理由により、現地報道は総じて懐疑的だ。

LINEスタンプは絵文字のように米国に浸透できない?

多くの現地報道に共通するのが、「数多くの強力競合メッセージアプリが存在する米国で、日本趣味丸出しのスタンプを前面に押し出すLINEは受け入れられない」とする予想だ。

6月13日付『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、無表情でクールなくま「ブラウン」とツンデレうさぎ「コニー」が「巨大サイズの絵文字夫婦である」と紹介。「これらのキャラが、よりユーザー規模の大きい競合の米WhatsAppのユーザー当たり6セントの収益や、中WeChatのユーザー当たり2ドルの収益を上回る6ドルの収益を叩き出す秘密だ」と論評した。その上で同紙は、「LINE が日本でこれほどまでに成功した『かわいい』という原動力が、他の国や地域でLINE が失敗する理由になるだろう」と手厳しい。

記事は、「データを吟味すれば、日本の『かわいい』文化であるLINEが、他国で成功する可能性は低い。過去1年で、日本国外のアクティブユーザー数は減少しており、有力市場とみられる中国においても、LINE は2014年からブロックされている。そして、アクティブユーザーの4分の3が日本以外に在住するにもかかわらず、同社の収益の70%は依然、日本国内に頼っている」として、悲観的だ。

日本では「定番中の定番」であり、誰もが使うLINEだが、筆者の住む米国では、使っている人がほとんどおらず、実際どんなものなのかピンと来ない人が大半だ。

例を挙げよう。現地校に通う筆者の高校生の娘に、LINEのオンラインゲームにはまっている親友がおり、彼女はゲームの対戦相手とLINEでメッセージ交換をしている。だが、娘を含む大部分の友人はスマホにLINEをインストールさえしておらず、彼らとはSnapchatやInstagram、iMessageなどで連絡している。つまり、米国でのLINEは「ディズニー・ツムツム」など人気LINEゲームをプレイする人たち限定の、特殊なメッセージツールとしてしか見られていないのだ。

米国では、絵文字文化が広く浸透しているものの、日本色の濃い「おにぎり」「弁当」「徳利とおちょこ」「鳥居」「おひなさま」「ちょうちん」などの絵文字は、文化の壁から使う人はいない。LINEのスタンプも同じ範疇に入るようだ。

さらに、スタンプのキャラに米国人好みの「皮肉っぽい毒のある性格」の登場人物が少ないことも、ネックだろう。ちなみに、ソフトバンクが開発したロボットPepperの米国版には、素直な性格の日本版と違い、「毒」を持たせているという。LINEの米国展開にも、そのような現地化が必要かもしれない。

深刻な現地投資家向けコミュニケーション戦略の失敗

こうした文化の壁や顧客数の伸びの頭打ちという不安要素に加え、米国での上場で深刻な問題は、投資家やメディアに対するLINEのコミュニケーションの稚拙さだ。

6月10日付の『テッククランチ』は、LINE がニューヨーク証券取引所と東京証券取引所の同時上場を告知した英語の声明に、同社がどれくらいの金額をIPOで調達しようとしているかが書かれておらず、日本語の声明を参照し、LINE広報に問い合わせなければなければならなかったと指摘。2200万株もの公募を行う米国で、LINEの現地投資家向けコミュニケーションが機能していないことを明らかにした。

さらに同サイトは、「LINE が最初に上場計画を発表した2年前と比べ、市場環境は激変した。その時に上場していれば、同社の時価総額は現在の2倍近い1兆円であった」として、LINEの行動の遅さを暗に批判した。

一方、6月2日付の『フォーブス』誌は、「IT関連のIPO環境は、非常に良くない。投資家は、LINE上場のタイミングに懐疑的であり、同社は上場までの限られた時間に投資家を納得させなければならない。失敗すれば、LINEの軍資金が足りなくなるだろう」とこき下ろした。また、LINEの稼ぎ頭がゲームアイテム課金であり、15年12月期の連結売上高の約1204億円のうち、約40%(約492億円)を稼いだことが、米メディアに浸透しておらず、報道が少ない。取り上げられるのは、売上の約23%(約287億円)に過ぎないLINEスタンプ課金ばかりだ。

現地でのLINEの広報体制が早急に立て直されない限り、米メディアが危惧する米国でのIPOの失敗が起こる可能性が、残念ながら大きい。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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