観光客を有料でマンションの空き室や一軒家に泊める「民泊」が、大阪府で国家戦略特区を利用して始まって3カ月になるが、業者の申請や認定はまだ2件にとどまっている。最低滞在日数6泊7日の規定が旅行者の実態とかけ離れているためで、大阪市内で実施されている「ヤミ民泊」の影響も受けたとみられる。
府内の宿泊施設が外国人観光客の増加で連日、フル回転しているだけに、府は規定を改めるよう国に強く求めている。
民泊認定は3カ月でわずか2件
大阪府環境衛生課によると、民泊認定されたのは、宿泊サイトを運営する「とまれる」(東京)が管理する大東市の賃貸マンション1室(26平方メートル)と、海外留学、民泊事業などを手掛けるフロンティア・カンパニーリミテッド(大阪府門真市)が管理する門真市の戸建て住宅(107平方メートル)の計2件。
大東市のマンションは1Kの間取りで、白を基調とした内装。カウンターキッチンを備えて最大4人まで利用でき、梅田まで電車で20分足らずの距離にある。門真市の戸建て住宅は4LDKの間取りで、最大8人の利用が可能。白と茶色を基調とした内装で、梅田から電車で約30分の場所に位置する。
4月の民泊スタート直後は1週間に約50件の相談や問い合わせがあるなど、大きな注目を集めていた。5月末まででも200件近い問い合わせがあったものの、ほとんどが申請に至っていない。
府の国家戦略特区を生かした民泊は、2015年10月に府議会で可決された民泊条例に基づき、スタートした。旅館業法では宿泊料を取って客を泊める場合、地方自治体の営業許可が必要になるが、府は国家戦略特区で許可基準が緩和されることを利用して民泊を推進しようとしたわけだ。
府条例の対象区域は府内43市町村のうち、独自に保健所を持つ大阪、堺の両市などを除いた37市町村。実施するかどうかは各市町村の判断に委ねられ、33市町村で4月から始まった。
このうち、守口市、大東市など5市町は市内全区域、残り28市町村は住居専用地域などを除き、商業地域などホテル、旅館の建築が認められている区域に限って民泊をスタートさせた。
府はトラブルを防止するため、近隣住民への説明義務付けをはじめ、苦情に24時間対応できる窓口の設置、旅行客滞在中に最低1回の使用状況確認、パスポートによる本人確認など細かなルールを設定した。行政に立ち入り調査の権限があり、違反業者の認定を取り消すこともできる。
スタート直前の3月末には、大阪市住之江区の咲洲庁舎で業者向けの説明会を開き、万全の態勢で動きだしたはずだったが、滑り出しからつまずく形となった。
府内の平均宿泊日数は1.68日
府が最大の問題とみているのは、特区法施行令で定められた最低滞在日数6泊7日の規定だ。同じ場所に6泊以上する海外からの旅行客はごく一部に限られ、採算が合わないと考える業者も少なくない。
民泊仲介大手の米エアビーアンドビー日本法人によると、2015年に同社のサービスを利用したゲストは国内全体で138万3000人を超えたが、1人当たりの平均宿泊数は3.5泊でしかなかった。
一般に海外からの訪日観光客は1カ所に長くとどまらず、成田や関西空港から入国したあと、首都圏と京都、大阪を回って帰国する人が多い。観光庁の調査でも、府内で1施設当たりの平均宿泊日数は1.68日というデータが出ている。
さらに、4月から旅館業法で定めた簡易宿所の面積基準が緩和され、マンションなど小規模物件でも許可が取れるようになった。条例による民泊で届け出るメリットが薄れたと考える業者もいるようだ。
このため、松井一郎知事は5月、東京都内であった国家戦略特区の会議で石破茂戦略特区担当相に最低滞在日数を2泊3日へ短縮するよう要請した。
府内は全国一の客室稼働率
訪日ビザの要件緩和などから、日本を訪れる外国人観光客は増加を続けている。観光庁のまとめでは、2015年の訪日外国人客数は対前年比47.1%増の1974万人に上る。
対前年比でみると、統計を取り始めた1964年以後で最大の伸び率となり、3年続けて過去最高を更新した。府内を訪れた外国人観光客数も大阪観光局のまとめで716万人に達し、前年に比べて91%も増えている。
これに伴い、宿泊施設の不足は深刻さを増してきた。2015年の客室稼働率は全国平均で60.5%だが、大阪府は85.2%と東京都の82.3%を抑えて2年連続で全国トップとなり、ほぼフル回転の様相を示している。
関西空港の対岸にある泉佐野市は、市内の宿泊施設稼働率が恒常的に9割を超え、ほとんどパンク寸前の状態だ。泉佐野市まちの活性課は「民泊で宿不足を少しでも解消したかったのだが、うまくいかない」と渋い口調で語った。
府内の客室稼働率を施設の形態別にみると、リゾートホテルが91.4%、シティホテルが88.1%、ビジネスホテルが87.8%で、いずれも全国で首位を占めた。大阪市内のホテルは予約が一段と取りにくい状況が続き、宿泊料金が高止まりする一方、あぶれた宿泊客が近隣に流れている。
民泊仲介サイトには、府内で300件以上の部屋が紹介され、中には無許可の物件もあるとみられる。違法営業の「ヤミ民泊」横行も、条例による民泊の出足を鈍らせているもようだ。
大阪府特区推進課は「6泊7日の規定は旅行者の実態に合っていない。宿泊施設不足の解消とルールに則った民泊を実現するためにも、今の規定を見直してほしい」と訴えている。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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