2016年6月23日の国民投票を受けて、英国が欧州連合(EU)から離脱する(「Brexit」)意思を示したことで、世界中に激震が走った。金融センターの役割を果たし、「FinTech」スタートアップも集まっていたロンドンなどで動揺も広がっている様子だが、母国・英国を支えると見られてきたスタートアップはどうなるのだろうか。
英テック企業も懸念していた「Brexit」が実現へ
市場関係者が中心となって、「Brexit」を広く懸念していた。ほかにも、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金を必要とするスタートアップもきっと、穏やかざる心境でいたことだろう。まずは英国民がEU離脱の意思を示すまでの経緯を振り返っておこう。
2010年のギリシャに端を発した信用不安が拡大した欧州では、その後も危機が続いた。加盟国政府は緊縮財政を余儀なくされる一方で、EU内の東欧からだけではなく、中東での難民化の影響など、欧州外からの移民も急増。雇用不安が表面化して、イギリスの国内でも英国民の不満が年々高まっていた。
英国内でもEUからの離脱を支持する「EU懐疑派」が台頭し、英国内政治を混迷させていた。その中で、EUからの離脱を訴えて支持を伸ばす英国独立党(UKIP)に対して、保守党のキャメロン首相は、2013年1月に実施する議会選挙で勝利した。キャメロン首相は、イギリスがEUに留まるべきか、離脱するべきかを問う国民投票の、2017年末までの実施を正式に表明し、英国とEUの関係見直しの審判を国民の手にゆだねた。
結果、1週間前の2016年6月23日、英国民が「EU離脱」の意思を表明し、世界中を驚かせた。選挙結果そのものは、全体の投票率は72.2%で、EU離脱派(52%)がEU残留派(48%)を上回り、「Brexit」の実現も決定的となった。もともとは、英国独立党の勢いに歯止めをかけるとともに、EU離脱派の議員を押さえ込むことを狙っていたキャメロン政権にとっては大誤算だったと言えそうだ。
ただ、EUからの離脱を決断した英国の首都ロンドンは、FinTech(金融×IT)に代表されるテクノロジースタートアップのハブとしての役割を果たしてきた。専門知識や優れた技術を有する人材、VCに代表されるリスクマネーを必要とする英テック業界にも、大きな影響を及ぼすのではないかとみられている。
FinTech企業の「英国離れ」の恐れも……
マネーの観点からみると、世界有数の金融街ロンドン・シティを擁する英国は、電子決済、新金融商品開発などのイノベーションも盛んであり、米国に次ぐ規模のFinTechへの投資先となっている。他方で「Brexit」により供給される資金も減るのではないかと心配する声もあり、スタートアップにとっての環境悪化も懸念されている。
また「Brexit」により、英国で銀行業免許を取得すればEU全域で営業できる「シングルパスポート」が失われる事態を想定して、大手金融機関は、ドイツ、フランス、アイルランドなどへの移転を検討。併せて、FinTech企業の間でも「英国離れ」が起きる可能性がある。
モノの観点からみると、英国は、古くから国際輸送網が発達し、EU域内向け国際物流のハブとしての役割を果たしてきた。Amazonをはじめ、eコマース物流に関わるテクノロジー企業も、英国内で多額の投資を行ってきた。「Brexit」により、英国とEU加盟国の間に貿易障壁ができるとなれば、電子商取引系のスタートアップ企業が、ドイツ、フランス、オランダなど、EU域内で物流ハブを有する国に移転するかもしれず、実現してしまえばイギリスにとってさらに不利とならざるを得ない。
ヒトの観点からみると、英国の主要教育機関は、他のEU加盟国から優秀なエンジニア人材を集めており、卒業生の多くがCEOやCTOとして英国内にFinTech企業を立ち上げてきた。「Brexit」によりこれが、優秀なグローバル人材が英国とEU加盟国の間を自由に行き来できなくなると、他国に基幹人材を奪われてしまえば、金融テクノロジー・イノベーションの停滞を招きかねない。
今後、英国政府が「Brexit」への対応を誤ると、人、モノ、カネの面で、FinTech企業の「英国離れ」も絵空事ではなくなる可能性もある。一気に流れが加速してしまえばスタートアップが一斉にロンドンから流出し、去ってしまう」、そんな懸念もある。
加えて、EUは、デジタル製品・サービスを対象としたオンラインアクセスの改善、デジタルネットワークとサービス環境の最適化、デジタル経済の成長原動力としての位置付けの3点を柱とする「デジタル・シングル・マーケット(DSM)戦略」を推進。英国政府も、DSM戦で主導的な役割を果たすべく、情報通信産業を対象とする投資を積極的に行ってきた。
「Brexit」に向けた交渉の結果いかんで、通信事業社の事業環境の激変にもつながりかねず、しばらくは予断を許さない環境が続きそうだ。(ZUU online 編集部)
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