サッカーの母国が世界経済を震撼させる大ニュースで揺れた。国民投票の結果、英国のEU離脱が残留を上回った。これを受け、国民最大の娯楽と言われているサッカーにも余波が及ぶことは確実だ。

投票の前からすでにポンド安が進むなど、金融市場を中心に世界経済レベルで大きな影響を与えることになった今回のEU離脱問題。日本でも人気・注目度の高いサッカー・プレミアリーグの環境に対し、どのような変化が表れてくるのか。

プレミアリーグもさまざまな対策を講じてくることは予想されるが、現時点で考えられる注目すべき懸念点を挙げておきたい。

移籍金など選手獲得にかかる費用の増加と選手流出の懸念

国民投票によるEU離脱が確実となり6月24日以降、通貨ポンドはどんどん下落していき、一時1985年以来の水準にまで下がった。

このような経済情勢が続くとなれば、プレミアリーグに属する各クラブにとって、海外選手を獲得するためのコスト増大という懸念が生じる。今夏の移籍市場でもその影響が出てくる可能性は高い。

先日、ユヴェントスから“買い戻される”と発表された、レアル・マドリードのスペイン代表FWアルバロ・モラタ選手。ユヴェントスはモラタをいったん買い戻し、再度売却することで利益を得る算段だ。

モラタ選手獲得を目論むチェルシーが支払う移籍金は、これまでの報道によれば6000万ポンド(約84億円)。しかしこの英国のEU離脱を受け、チェルシーが支払うとされる金額は、6700万ポンド(約94億円)まで増加すると見られている。

一方、他国のリーグとしては、逆にプレミアリーグで活躍する選手を獲得しやすくなる。スター選手の獲得を目指すリーガ・エスパニョーラやセリエA・ブンデスリーガなどに属する各クラブは、英国からの選手補強に動くには良い機会だ。

ただ本国・英国人の選手達にとっては、今回の離脱は海外挑戦の機会が縮小してしまうリスクとなる。例えばスペインのリーガ・エスパニョーラでは、EU圏外のプレーヤーは25人のうち5人までしか登録できない。

つまり英国人選手達は今後、リーガ・エスパニョーラなど海外において、数少ないEU圏外枠を中南米やアフリカ・アジアなど広範な地域の選手と争わなくてはならないのだ。

外国人選手が直面するビザ問題

今回、プレミアリーグ選手の中で最も大きな影響を受けそうなのが外国人選手だ。もともとEUに属していたころの英国、サッカー・プレミアリーグについては約65パーセントの選手が海外出身。これもリーグをグローバル・ブランドにまで引き上げた一因だった。

これまでは、EUパスポートを所持している選手であれば労働許可を必要とすることなく、プレーすることが可能だった。しかしこの規則の適用外となってしまえば、EUパスポートを所持している外国人選手であっても、英国のビザを取得しなければならない。

そのためには該当する選手が、所属する国の代表としてFIFA(国際サッカー連盟)が定めているランキングに応じた試合数に出場していることが必要。

例えば、レスターに所属するフランス代表MFエンゴロ・カンテ選手は、昨年の夏に英国に渡った時点で、母国の代表に招集された経験がなかった。

このように、取引が煩雑で複雑化することが予想されており、リーグとしての魅力維持が難しくなるのではないか、という懸念の声も上がりつつある。

「未来のスター候補」18歳以下の選手との契約問題

FIFAが定めている規程では、18歳以下の選手については国際的な取引が禁止されている。しかしEU圏内では取引が認められており、欧州各国リーグはこの制度を十分に活用してきた。

だがEUから離脱した結果、英国においては18歳以下のプレーヤーとの契約も、FIFAの規定により基本的には結べなくなる。そうなると、セスク・ファブレガス、ポール・ポグバ良選手といった、才能豊かな若手選手を事前に発掘・取引することもできない。

今や世界ナンバーワンのサッカー選手の一人、ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド選手が名門マンチェスター・Uに入団したのは18歳の時。

また、スペイン代表MFセスク・ファブレガス選手は、16歳の時にバルセロナからアーセナルへ移籍。今後はこういった18歳以下の「スター候補」の移籍も見られなくなる可能性が大いにあるのだ。

二重国籍を保有する南米出身選手との契約も困難化

二重国籍を有する選手達も、この影響を受ける可能性が非常に高い。EU加盟国であれば、その国の国籍を持つことで、これまでは南米出身選手も外国人選手として扱われることはなかった。

現在、パリ・サンジェルマンに所属するアルゼンチン代表MFアンヘル・ディ・マリア選手は、イタリア国籍も保有している。

過去、マンチェスターUに所属していた際は他の欧州出身選手と同じ扱いだったが、この場合もEU離脱によって規定の適用外になってしまうことになる。

サッカーの母国が乗り越えるべき「混乱」という壁は高い

今回見てきた問題点・課題は、現行制度と照らしあわせ・すり合わせた場合に浮かび上がってくる懸念点だ。今後、プレミアリーグ側の対処により制度が柔軟に変わる可能性もないわけではない。

仮に大きな制度変更のような動きが今後もないのであれば、これまで繁栄してきたプレミアリーグの競争力に、大きな「ブレーキ」がかかることは十分に考えられる。

今後、英国のEU離脱の影響が深刻化してくる中、プレミアリーグがどんな対処・措置を講じてくるのか。その方向性がどのようなものであっても、世界のサッカー界にとって避けて通れない問題になるだろう。(ZUU online編集部)

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