日銀短観,リスク
(写真=PIXTA)

4-6月期の日銀短観大企業製造業業況判断DIは+6と、1-3月期から変化はなかった。7-9月期の先行きDI(+6)も変化はなかった。一方、4-6月期の大企業非製造業業況判断DIは+19と、1-3月期の+22から悪化した。7-9月期の先行きDIも+17への更なる悪化となった。

円高・株安はグローバル要因で進行

グローバルな景気・マーケットの不透明感が増し、円高・株安が進行し、2016年度下期のドル・円の想定レートも117.46円から111.36円に大幅に円高方向に修正され、製造業のDIが悪化しても不思議ではなかった。実際に、自動車の業況感は大きく悪化し、DIは2012年10-12月期以来のマイナスに転じた。しかし、これまでの構造改革により企業は高利益体質になっており、円高には相当の耐久力ができていると考えられる。

商品市況が持ち直したことも景況感の押し上げにつながった。一方、英国のEU離脱問題によるグローバルな景気・マーケットの更なる不安定化と円高の更なる進行は十分に織り込まれておらず、現在の業況感は若干悪化しているとみられる。2014年の消費税率引き上げ後の内需の回復が遅いこと、そしてこれまでの積極的な雇用拡大に見合う需要と収益がついてこないことが、素直に非製造業の業況感の悪化につながったと考えられる。更に、円高の影響がインバウンド需要の減速に波及し、不動産、小売、宿泊・飲食などの業況感が悪化した。

企業のリストラ再発を止めるために

1月の日銀の追加金融緩和は「リスクの顕現化を未然に防ぐ」ことが目的で、フォワードルッキングに行われたものであるとしている。緩和当時に想定していた以上に、グローバルな景気・マーケットの不安定感は増しており、更に「リスクの顕現化を未然に防ぐ」追加金融緩和が7月の金融政策決定会合で必要になってきているとみられる。

デフレ完全脱却の前に、不安を感じた企業のリストラが再発してしまえば、これまでのアベノミクスの試みが失敗に終わってしまうからだ。製造業の業況判断は悪化しなかったが、2016年度の大企業製造業の売上高・経常利益計画は前年比-0.5%・-11.6%、大企業非製造業も-0.8%・-3.4%と弱く、大きく下方修正されてきている。大企業製造業の売上高経常利益率も6.35%へ、7.13%から大きく下方修正された。

マイナス金利政策の評価は中小企業貸し出しで

日銀が導入したマイナス金利付き量的質的金融緩和の評価はまだ定まっていない。金融機関は日銀当座預金の残高にマイナス金利が付されるため、より貸出や投資に積極的になり、景気刺激効果と円安効果があるというのが日銀の目論見である。一方で、マイナス金利は日銀当座預金残高からの収入の減少や貸出利鞘の縮小を意味するため、金融機関の財務悪化が貸出や投資を消極的にしてしまう悪影響があるという指摘もある。

実際に、マイナス金利政策の評判は、金融機関だけではなく、国民の間でも芳しくない。最終的に評価を決するのは、企業が金融機関の貸出態度が緩和したとみるのか、引き締まってしまったとみるのかである。その結果は、日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIに表れることになる。

1-3月期のDIは+20と、10-12月期の+17から大き目の上昇となった。4-6月期には+19へ低下した。3ポイントの上昇の後の1ポイントの低下で、反動と見られるが、次回の短観で低下の勢いがつかないか、注目する必要がある。今のところ、まだ副作用が確認されたとは言えず、日銀の追加金融緩和を躊躇させるものではないだろう。

企業の雇用・設備を拡大させる動きはピークアウトなのか

日銀は、業況感の変動はあるが、労働市場の需給が引き続き引き締まり、賃金上昇が物価を日銀の目標である2%へ向けてトレンドとして加速させるシナリオはまだ崩れていないとみている。金融機関の貸出態度DIは失業率に明確に先行することが知られており、このDIが改善を続けることは、マイナス金利の副作用を判断する上でも、労働市場の改善が今後も順調であるという確信を得るためにも重要である。

一方、全規模全産業の雇用判断DIは1-3月期に-18(マイナス=不足)と、10-12月期の-19からは若干悪化し、4-6月期も-17に更に悪化した。円高の進行と、2014年の消費税率引き上げ後の内需の低迷が、労働市場の改善ペースを遅らせるリスクもあるので注意が必要だ。

2016年度の大企業全産業設備投資計画は前年比+6.2%と、前回の-0.9%から上方修正になった。しかし、1-3月期の短観による調査スタート時のマイナスから、4-6月期にプラスになるのは毎回の季節要因である。2015年度の計画が4-6月期時点で+9.3%であったことを考えると、設備投資モメンタムはプラスを維持し堅調であるが、強いとは言えない。

季節調整をかけると、2015年7-9月期のピークである前年比+9.1%から、2016年4-6月期には+4.4%まで減速してしまっている。雇用判断DIの改善ペースの減速とともに、企業の雇用・設備を拡大させる動きにはピークアウト感が出てきてしまっているのかもしれない。

政策対応が伴わなければ、業況感反転のリスクあり

短観の結果は、足元の悪化は大きくないが、先行きのリスクが大きくなっていることが感じられる。「リスクの顕現化を未然に防ぐ」ため、政府・日銀によるしっかりとした政策対応で企業活動を刺激することが必要になっていることを示していると考える。政策の効果が、企業のリストラが再発するまでに見られるか、時間との戦いになってきている。引き続き、7月の金融政策決定会合で日銀は追加金融緩和に踏み切り、更なる円高へのリスクの芽を摘もうとすると考える。

7月の参議院選挙後、新たな成長戦略に基づいた大規模な財政経済対策(最低限10兆円程度)が実施されるだろう。財政政策が緊縮から拡大に転じ、消滅していたネットの資金需要(アベノミクス1.0の終焉)が復活し、それをマネタイズする金融政策の効果も強くなり、グローバルな景気・マーケットが安定感を増していけば、アベノミクスのリフレ効果(アベノミクス2.0)が再び強くなるだろう。

しっかりとした政策対応がなされれば、7-9月期の短観はまだ軟調であるが、10-12月期の短観では業況感の反転がみられると予想する。政策対応が不十分であれば、マーケットの失望が企業の業況感の悪化を加速させ、企業のリストラの再発がアベノミクスのデフレ完全脱却の試みを失敗に追い込むリスクがかなり高まるだろう。政策当局が、この短観で、見かけ上の堅調さに惑わされず、リスクの芽をどれだけ敏感に感じとれるのかが重要になってきている。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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